平成29年(2017年)9月20日(水) / 各地の医師会から / 日医ニュース
ひょうごモデル「災害時における福祉避難所船構想」の実現へ 内閣府「大規模災害時における民間船舶を用いた要配慮者の受け入れ及び医療支援実証」報告―兵庫県医師会―
都道府県医師会だより
- 000
- 印刷
わが国は4つのプレートの境界に位置し、世界でも有数の地震国である。地震の活動期に入ったとされる今日、日本のどこで大きな地震災害が起こってもおかしくない状況にある。
JMAT活動の重要な使命の一つが災害関連死を防ぐことである。神戸で約900名、東日本で約3000名に及んだ災害関連死を防ぐためには、災害時要援護者への早期対応が不可欠であるが、熊本地震でも対応は遅く、いまだ十分ではなかった。
兵庫県医師会「福祉避難所船構想」は東日本大震災で多数の災害関連死者を出した教訓から、避難所における災害時要援護者の救済策として提唱してきたものである。平成24年に県医師会、県、神戸市、神戸旅客船協会などを中心に災害時医療支援船構想推進協議会を立ち上げ協議を重ねてきた結果、内閣府に取り上げて頂くことができた。
①ホテルシップ②ドクターシップ③キャリーシップ―の三つの機能を融合させ、船全体を避難所として運営する構想は「ひょうごモデル」とされている。急性期に活動する自衛隊等の艦船を利用した「病院船構想」とは違った発想と構想で亜急性期から慢性期に民間船を活用する。
平成29年2月5日、内閣府による災害時要配慮者避難所船構想の実証訓練が、神戸港新港第3埠頭に係留されたジャンボフェリー所属の「こんぴら2」の船上にて行われた。小豆島・高松航路で運用されている3633トン、定員475人の船舶である。内閣府、国土交通省、県、神戸市、県医師会、県歯科医師会、県薬剤師会、県看護協会など12団体、約170人が参加、本県医師会からは12名が参加した。訓練にはさまざまな災害時要配慮者の状況が設定されており、看護学生が各種の装備を着け、忠実に状況を再現させていた。
JMAT兵庫が医療部門の中心となり、医師4チーム、歯科医師2チーム、モバイルファーマシー、栄養士調理師各1チームを統率して活動を行った。
医師会は1チームが統括業務を担い、他チームは受付にて乗船者の健康チェック、船内巡回診療及び医務室で業務を行ったが、JMAT兵庫では普段より多職種との連携訓練を行っており、実証訓練も難なくこなすことができた。繰り返し行っているJMAT研修会の重要性を再認識した。
今回使用した船舶はバリアフリー対応ではなく、エレベーター設備もないため、船内の移動には大変苦労し、ストレッチャーも使用できない場面があった。また、迷路のような内部構造は高齢者には配慮が必要と思われた。そして、エンジン音や震動など船独特の環境と船酔いへの対応、船内は照明が極端に暗く診療に影響があったことなど、さまざまな問題点が浮かび上がった。
一方、温度管理された快適な室内、調理された温かい食事や入浴設備など、ホテルとして整った環境は体育館などの劣悪な環境とは比べられるものではなく、我々が経験したように福祉避難所の立ち上げが非常に困難な中、避難所として有用なことは自明の理である。今後はどのような方を収容するのが望ましいかの検討が必要である。
当初は船舶の手配、被災地への入港や接岸の問題などが議論されていたが、現在は国土交通省が港の掃海や岸壁修復を行い、旅客船協会の協力により船舶も確保できることになっている。
しかし、船舶を避難所として指定するには災害対策基本法など関係法令を変更する必要がある。避難所として指定されなければ災害救助法による財政支援が受けられず、費用を公費以外で捻出しなければならない。
海洋国日本においては、陸上支援はもちろんだが、陸路が断たれることも想定し、海上支援も検討しておくことが肝要である。県医師会から始まった「福祉避難所船構想」は、今後は内閣府に引き継がれることとなるが、一日も早く実現することを切に望む。