個人質問1 柔道整復師の施術制限と療養費受領委任払いについて
武内鉄夫代議員(神奈川県)からの①柔道整復師の施術範囲の厳守②療養費受領委任払い制度の廃止―について日医の見解を問う質問には、釜萢敏常任理事が回答した。
同常任理事は、柔道整復療養費は、さまざまな適正化策が講じられたことで平成24年度からは前年に比べ総額が減少に転じ、社会保障審議会医療保険部会の下に設置された「柔道整復療養費検討専門委員会」で、療養費のあり方等について議論が行われている現状を説明。
その上で、①については、本来の支給対象から逸脱することのないように、地方厚生局による指導・監査の迅速化を求めるとともに、今後も注視していきたいとした。
②については、療養費制度に対する国民の理解を深めるとともに、厚生局の体制強化と運用改善が必要と指摘。不正に対しては、厳しい処分の確実な実行を求めていく姿勢を示し、国民にとっての望ましい仕組みを、国民と医療関係者が共に、継続的に考えていく必要があるとした。
また、来年4月の入学生から適用されるカリキュラムの大幅な見直しの影響についても、日医として注視していくとした。
個人質問2 勤務医も「労働者」であるとして、時間外労働の上限設定がなされることについて
中島豊爾代議員(岡山県)の医師の働き方改革に対する日医の基本的方針を問う質問には、松本吉郎常任理事が、国は2年後を目途に医師の働き方について結論を得る方向で進めているが、国の検討の場でしっかりと意見を伝えるため、会内に「医師の働き方検討委員会」を設置し、6月21日に第1回目を開催したと説明。「今できる働き方改革」については今年度中に中間答申として取りまとめた後に、更に「将来の働き方改革」を取りまとめ、国や関係各方面に提言していく予定であるとした。
その上で、「医師の働き方は、地域医療体制の維持という面から考えることも不可欠であり、応召義務の問題は大事な論点になる」と述べるとともに、他の職業と同列に扱うことが難しい医師という職業の特性を踏まえて議論をしていきたいとした。
また、過重労働に対しては、勤務医師の健康を守るため、今後しっかりと検討した後に全医療機関にも是正を求めていくとした他、国民にも、勤務医師の労働環境の厳しさを訴え、病院の利用や適正な受診の在り方について理解を求めていく考えを示した。
個人質問3 高齢者医療の問題点について
高木平代議員(静岡県)は、①質の高い高齢者医療を維持するための打開策②"死"という現実の理念を国民に理解・共有してもらう積極的な取り組み―について質問。
松本純一常任理事が、①には、国民が安心して必要な医療を受けられる国民皆保険を将来にわたり堅持していくためには、全ての世代が安心感と納得感の得られる全世代型の社会保障制度とすることが求められるとするとともに、これを将来の世代につなげていくためにも、安定財源としての消費税率の引き上げが必要になるとの考えを示した。
②では、今期の生命倫理懇談会では、会長諮問「超高齢社会と終末期医療」について検討中であり、11月末を目途に答申を取りまとめる予定であるが、こうした重要課題は国民の納得を得て進めていく丁寧なプロセスが必要であると指摘。全国紙朝刊の意見広告や『日医ニュース』にも「リビングウィル」に関する記事を掲載したが、これらを一つの契機として、尊厳ある終末の在り方について、国民的な議論の喚起につなげていきたいとした。
個人質問4 新専門医制度による更なる地域医療崩壊への危惧について
小池哲雄代議員(新潟県)の新たな専門医の仕組みによる更なる地域医療崩壊への危惧についての質問には、羽鳥裕常任理事が、日本専門医機構の理事会で新整備指針及び運用細則の改訂が承認された他、厚労省の「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」でのヒアリングの結果、各学会が専攻医の勤務先医療機関や研修状況の把握・管理のためのシステムを設置・準備する等、医師の偏在を助長しないよう対応を整えていると説明した。一方、地域医療への影響の検証には、各都道府県協議会での各領域のプログラムごとの専攻医の応募・採用予定状況の把握と十分な協議が必要であり、厚労省が近々改めて通知を発出し、その徹底のために各都道府県行政担当者への説明会を開催する予定であるとした。
日医でも日本専門医機構との連携を一層強化しつつ、厚労省の医師需給分科会においても実効性のある具体策が実践されるよう主張し、平成30年度の開始に向け全力を傾注していくとして、都道府県医師会に対しては、都道府県協議会に主導的な立場で関与するよう協力を求めた。
個人質問5 地域包括ケア病棟(床)の運用について
小熊豊代議員(北海道)からの地域包括ケア病棟(床)の運用について日医の見解を質す質問には、石川広己常任理事が回答した。
同常任理事は、地域包括ケア病棟入院料及び入院医療管理料について、中医協の調査では、200床未満の中小病院からの届け出が64%、200床以上の大病院からが36%であったことに触れ、「日医は、病床の機能分化と連携の観点からも、急性期の大病院が経営のために地域包括ケア病棟の届け出を行うことは好ましくないと考えている」とし、「本来の趣旨に沿った運用がなされているか、中医協での分析を要請している」と述べた。
その上で、「民間病院にせよ公立病院にせよ、地域に密着し、地域包括ケアシステムを支える中小病院を、地域の実情も踏まえつつ、今後もよりしっかりと評価したい」とするとともに、連携できる医療機関や施設がない地域もあることから、こうした地域で孤軍奮闘している地方の中小病院への対応が今後の課題であるとの認識を示した。
個人質問6 かかりつけ医を中心とした「切れ目のない医療・介護」の提供と推進について
河野幸治代議員(大分県)からのかかりつけ医を中心とした「切れ目のない医療・介護」の提供と推進に関する有床診療所と医師会共同利用施設の今後についての質問には、鈴木邦彦常任理事が回答した。
同常任理事は、「日医は、貴重な医療資源である有床診療所がこれ以上減らないよう、さまざまな場でその機能や必要性を説明して、支援を求めてきた」とし、平成30年4月から届出による病床設置の特例拡大が決まり、診療報酬についても、入院基本料の底上げや各種加算など重点的な評価が実現していることを強調。看護職員の養成補助やスプリンクラーの設置補助についても、要望活動を行っているとした。
また、医師会共同利用施設については、「切れ目のない医療・介護の提供に貢献する共同利用施設の活動により、健康寿命が延び、患者のQOLが向上し、医療費の適正化にもつながることを期待している」と述べ、今期の医師会共同利用施設検討委員会でも、「健康寿命の延伸に向けた新たな取組と地域における役割」について検討しているとした。
個人質問7 少子化対策の一環として、国の子どもの医療費助成の一本化は可能か
國富泰二代議員(岡山県)からの子どもの医療費助成に関する質問には、温泉川梅代常任理事が回答した。
同常任理事は、中学卒業までを対象に、国が一本化して医療費助成を行う場合、厚労省による平成24年度予算をベースにした試算では7,100億円の影響額が想定されているとして、「国の厳しい財政状況等を勘案すると、現時点では課題が多いと思われる」との見方を示した。その上で、「将来を担う子ども達のための施策は、国全体で推進していくべきであり、小児医療費助成制度の年齢の拡大など、全国一律の制度となるように求めていく」と強調した。
医療費助成を上乗せする市町村に対する国保の減額調整措置については、「減額調整措置そのものが、わが国の喫緊の課題である少子化対策に逆行しており、未就学児に限らず撤廃されるべき」と述べ、見直しに当たっては、子どものかかりつけ医の普及、子育て支援策の充実などの施策と併せて取り組むべきだとした。
個人質問8 中・小医療機関医師会員による臨床研究に関する倫理審査について
杉本欣也代議員(兵庫県)からの中・小医療機関医師会員による臨床研究に関する倫理審査に関する二つの質問には、羽鳥常任理事が回答した。
倫理審査体制の構築については、現在、17の都道府県あるいは郡市区医師会と55の日本医学会分科会で倫理審査委員会が設置されていること、また、それらの倫理審査委員会において審査を受けられない研究者を支援するため、日医では倫理審査委員会を設置(平成28年2月)したことを改めて報告。その上で、今般公布された「臨床研究法」でも、「診療記録を二次利用するなどの観察研究をする場合は、既存の倫理審査委員会で審査可能」とされていることを説明し、既存の倫理審査委員会の利用を求めた。
また、医師会や医師会員が倫理審査を受けていない論文を出版している現状については、「必ずしも倫理審査を受けなくてもよい場合もあるため、新たに研究計画された際は、既存の倫理審査委員会及び日医の倫理審査委員会に相談して欲しい」と述べた。
個人質問9 エイズ患者の高齢化に伴う介護体制について
玉城信光代議員(沖縄県)からのエイズ患者の高齢化に伴う介護体制に対する日医の見解を問う質問には、道永麻里常任理事が、HIV陽性者の高齢化により、リハビリや入院、人工透析などが必要となり、通常の診療所、中小病院での対応が求められている現状を説明。「HIVの感染経路としては血液や体液の曝露が想定されることから、まずは、通常の診療所や介護施設でも手袋を着用するなど、標準予防策を行う意識づけが必須であり、今後は医療従事者の安全確保に向けた啓発活動が重要になる」とした。
また、HIV抗体陽性の患者への対応についての診療報酬上の評価に関しては、「現状でも加算をしているが、エイズの慢性疾患化に伴う感染症対策という問題は、医療の進歩によりもたらされた新しい課題であり、次回同時改定において、診療報酬や介護報酬での対応も含めて検討していきたい」と述べた。
個人質問10 研修医の日医加入の促進のために
佐藤和宏代議員(宮城県)からの①日医医賠責保険の保険料を一部引き下げることが可能になった要因②郡市区医師会の減免制度の徹底、病院管理者への要請等に関する日医の考え―を問う質問には、市川朝洋常任理事が回答した。
①については、保険会社と交渉を行った結果であるとした上で、「その実現の最大の理由は、会員の先生方の医療安全に対する日頃の取り組みにより、医賠責保険の収支が安定してきたことにある」と説明し、感謝の意を表明。今後は『日医ニュース』や日医ホームページ等も活用し、保険料の引き下げを広報していくとするとともに、「研修医・若手勤務医の入会は日医の組織強化において最大の課題であり、都道府県並びに郡市区等医師会にも更なる協力をお願いしたい」と述べた。
また、②については、研修医会員の会費無料化を全国の医師会に対して求めるとともに、病院管理者への働き掛けが重要であるとし、臨床研修病院に対しても、入会案内冊子を毎年送付する等、引き続き協力依頼を行っていく意向を示した。
個人質問11 医師への倫理教育について
小林弘幸代議員(東京都)からの大学医師会を通じて医学生及び臨床研修医との接点を強化し、より徹底した倫理教育を実現してはどうかとの提案に対しては、今村定臣常任理事が回答した。
同常任理事は、提案への賛意を示した上で、現在、会内の「医師会組織強化検討委員会」で準備を進めている大学医師会の実態把握に向けたアンケート調査の結果を待って、今回の提案の実現可能性を始め、日医と大学医師会の更なる連携の在り方について検討していきたいとした。
また、会内の「会員の倫理・資質向上委員会」が発行した『医の倫理について考える~現場で役立つケーススタディから』を広く利用してもらえるよう、日医のホームページに掲載するとともに更なる広報に努めるとした他、大学医師会が都道府県医師会との共催により、医学生及び臨床研修医向けの倫理教育のための会を開催することになった際、要請があれば日医役員を講師として派遣する意向を示した。
個人質問12 臨床実習研修の再編と医師養成課程の根本的な再検討―新たな専門医制度に先立ち、日医の積極的な提言を―
日医が大学・学会・日本専門医機構と連携し、わが国の医師養成制度全般を根本的に見直し、国に提言すべきとの上村利彦代議員(北海道)からの提案には、釜萢常任理事が、積極的に検討・提言していく方針を示した上で、具体的な事項については次のように回答した。
「基礎・系統講義時間の復活と実習時間の再編」については、8年間の医師養成課程の中で、いかに医師としての総合的な臨床能力を涵養していくかに重点を置くべきとの考えを明示。「臨床研修における地域医療研修で地方研修を義務付けること」に関しては、地域医療対策協議会の機能性の発揮によって対応を図ることが現実的であるとした。
また、「研修課程再検討後の『新たな専門医制度』の構築と選択」に関しては、「卒前・卒後の一貫教育を充実させるような仕組みができれば、日本専門医機構で検討することになる」とし、「その際には日医としても積極的に関与していきたい」と述べ、理解と協力を求めた。
個人質問13 2025年の多死社会を迎えるに当たって
「市民目線で生と死を考えるような試みを日医が始めては」との小串輝男代議員(滋賀県)からの提案には、鈴木常任理事が回答を行った。
同常任理事は、「生と死」という人の根源に係る問題について、国民と同じ目線のフラットな関係において、より説得力ある活動を推進していくことは、極めて重要な視点であると指摘。
今後は、「超高齢社会と終末期医療」に関する生命倫理懇談会での議論の内容や、厚労省の「人生の最終段階における医療体制整備事業」の推移なども見守りつつ、地域包括ケアシステムを構築していく中で、人間の尊厳が生涯にわたって大切にされる社会の実現を目指し、国民と共に、さまざまな角度から積極的に取り組みを進めていく考えを示した。
また、その際には、地域医師会の理解、本人や家族等への啓発、より一層の多職種連携を推進していくことが不可欠になるとして、更なる協力を求めた。