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平成28年(2016年)7月5日(火) / 南から北から / 日医ニュース

水難

 夏になると水難事故の報道が多くなるのは例年のことであるが、私はこれらの事故が他人事とは思われない。私には俗に言う水難の相があるのか、死の一歩手前で辛くも助かったことが三度ある。
 一度目はほんの子どもの時、家のすぐそばの小さな川にはまったこと。ある雨の日、たまたま隣家のおじさんが窓を開けて外の様子を見ていたところ、小さな子どもがチョロチョロしているのに気付き、川が近くにあるので危ないなと感じて表に出た。が、今いたはずの子どもの姿が見えないので辺りを見回していると、突然水中からボコッと子どもの頭が飛び出したので、襟首をつかまえて引き上げたという。母から幾度となく聞かされたので話としては覚えているが、実体験の感触は全くない。
 二度目は小学生の頃のドジョウ獲りの時である。町中の道路と田の間を流れる小さな川なのだが、増水するとかなり水勢が強く、この勢いを避けるためか、橋杭の根元に近い部にドジョウが集まってグルグル回っている。これを網ですくうのに夢中になり、川縁から滑り落ちてしまった。急な流れに押し流されて、あわやという時、後ろから服をつかまれて助かった。一息ついた後、助けてくれたのが母であることに気が付いた。噓(うそ)のような話だが、この日たまたま買い物帰りの母が息子のドジョウ獲りに気付いて、声を掛けようと近寄って行った途端の転落だったという。
 三度目は大学の夏休み、親友と海水浴に行った時の話だ。二人でかなり遠くまで快調に泳いでいったのは良いのだが、途中から天候悪化で浜に戻ることにした。波がだんだん強くなり疲れてきたため、岩礁に上がって少し体を休めようとしたのが裏目に出た。近付く時は寄せ波で岩に打ちつけられ、ようやくしがみついたら今度は引き波で戻され、愚かにも幾度となく中途半端なチャレンジを繰り返した結果、手のひらは岩で傷だらけ、体はほぼ全身打撲に近く、まさに疲労困憊(こんぱい)。しばらく波間に漂って何とか気力を取り戻し、死に物狂いの最後の挑戦で上がることができた。親友もほぼ同じような経過だったという。
 岩上でしばし体を休めてから浜に向かったのだが、後から考えれば海で仰向けに浮かんでいることは自分には難しいことではなく、そうやって休みつつ泳ぎ戻れば良かったのに、何であんなに岩にこだわったのか。今もって分からない。
 あれから50年ほど水難に無縁でいるが、いまだ入浴時に少し神経質になっている自分がいる。

北海道 北海道医報 第1166号より

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