煙が出ない新しいタイプのたばことして「加熱式たばこ」や「電子たばこ」などを使用する人が増えています。
加熱式たばこについて、たばこ会社の中には、発がん性物質や有害物質は紙巻きたばこより少なく、たばこ関連疾患のリスクを減らすことができるといった研究論文を出しているところもありますが、米国FDAたばこ製品科学諮問委員会は、その主張を否定していますし8)、2017年には加熱式たばこのフィルターから加熱時に有害物質が発生しているとの報告も出されています9)。
また、電子たばこから発生するエアロゾルには、紙巻きたばこより低濃度とはいえ重金属やさまざまな発がん性物質が含まれていることも明らかになっています。
実際に米国の電子たばこを吸い始めた若者を対象とした調査によると、約2年間で急性肺障害により2,807人が入院し、68人が死亡したことが10)、日本でも加熱式たばこによる急性肺障害が起きていることが報告されています11)。
新型たばこは煙も出ないことから体への影響が少ないと考え、紙巻きたばこから禁煙目的で切り替える人もいます。しかし、その成功率はむしろ格段に低くなるという調査結果が出ていますし12)、若い人の中にはダイエットに有効と考えている人もいるようですが、それは大きな誤りです。
その他、電子たばこを使用したことがある者は未経験者よりも紙巻きたばこの使用を始めてしまう人が多いといった報告もありますし、長期にわたるエアロゾル吸引が体にどのような悪影響を及ぼすのかは確認されておらず、その有害性を明らかにする研究が進むことが期待されます。
FOOD AND DRUG ADMINISTRATION. Meeting of the Tobacco Products Scientific Advisory Committee January 24-25,2018.
https://www.fda.gov/media/111455/
Davis B, et al. Tob Contol. 2019; 28: 34-41.
CDC: Outbreak of Lung Injury Associated with the Use of E-Cigarette, or vaping, Products.
Kamada T, et al. Respirology Case Report. 2016; 4: e00190.
Hirano T, et al. Int J Environ Res Public Health. 2017; 14: 202.
下記に示すように有害性は加熱式たばこと
加熱式たばこ(μg) | 紙巻きたばこ(μg) | |
---|---|---|
ニコチン | 301 | 361 |
アクロレイン | 0.9 | 1.1 |
ベンズアルデヒド | 1.2 | 2.4 |
アクロレイン:劇物、ベンズアルデヒド:
Auer R, et al. JAMA Intern Med. 2017; 177: 1050-52.より抜粋、改変
グラフに示す通り、含有量は異なるものの、加熱式たばこにも紙巻きたばこと同様に多数の有害物質が含まれていることが分かり、健康への影響が懸念されます。
※試験研究用の紙巻きたばこ参照品の主流煙に含まれる各成分量を100%としたときの割合
厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究
紙巻きたばこ・加熱式たばこを使用している父親の家族と非喫煙者の父親の家族の尿中のニコチン代謝物の濃度を測定し、ニコチンが体内に吸収されているかどうかを調べた国内の研究があります。
これによると、紙巻きたばこよりは少ないものの、加熱式たばこでも、家族の尿中からニコチン代謝物が検出され、受動喫煙のリスクにさらされることが分かっています。
Onoue A, et al. Int J Environ Res Public Helth. 2022; 19: 6275より作図
このように、新型たばこは煙が出ないからと言って決して安全ではなく、紙巻きたばこと同様に健康リスクがありますし、含まれる有害物質によって受動喫煙も引き起こすものなのです。
加熱式たばこによる健康への影響は、赤ちゃんや子どもにもあることが分かってきています。
*1 Zaitsu M, et al. BMJ Open. 2021; 11: e052976.
*2 Hosokawa Y, et al. Int J Environ Res Public Health. 2022; 19: 11826.
*3 Zaitsu M, et al. Allergy. 2023; 78: 1104-12.
0~6歳の子どもと同居する喫煙者を対象としたインターネット調査では、紙巻きたばこより加熱式たばこを誤飲しそうになった割合が高いことも分かりました13)。
加熱式たばこは危険ではないとの誤った認識から、子どもの手が届きやすい場所に放置されやすいことがその要因として考えられます。
実際に加熱式たばこを子どもが誤飲した事例も明らかとなっていますし14)、誤飲した場合には、ニコチン中毒以外にも加熱式たばこの中にある金属片で内臓を損傷する危険性も指摘されています15)。
消費者庁「乳幼児のたばこの誤飲に注意しましょう!」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/
日本小児科学会:Injury Alert(傷害速報)No.063 加熱式タバコの誤飲
国民生活センター:なくならない乳幼児による
https://www.kokusen.go.jp/test/data/s_test/
加熱式たばこの他に、注意したいのが「水たばこ」です。
「たばこと違って害が少ない」といった誤解の他、若い女性を中心にSNS映えするなどの理由で、水たばこを使用する人が増えています。
専門のカフェやバーもあります。
水たばこはたばこの煙を水にくぐらせて吸い込みますが、煙が水を通ることによりたばこに含まれている有害物質が浄化されるなどとも言われていますが、まったく根拠がなく間違った情報です。
水たばこを加熱する際の燃料には木炭などが含まれるため、急性の一酸化炭素中毒を引き起こすリスクがあります。
その他にも、米国では2011~2019年に約1,300人以上が水たばこに関連したやけどや意識消失、めまい、軽い頭痛など、急性の症状で救急部門を受診したことが明らかになっています。
またFDAという米国の医薬食品局(日本の厚生労働省に該当する機関)からは、水たばこの喫煙時間が1回1時間程度と長いため、紙巻きたばこより有害な化学物質を多く吸い込んでしまうことが指摘されています。
国民健康・栄養調査によると、習慣的に喫煙する人が使用しているたばこの種類は加熱式たばこが男女とも約3割を占め、特に男性では30~40歳代で、女性では20~30歳代の比較的若い世代で使用者の割合が高くなっています。
厚生労働省:令和元年国民健康・栄養調査報告より作図
日本の中高生約6万人を対象とした調査では、中高生の加熱式たばこの使用者が報告されています。
高校3年生では男女あわせて2.9%と中学3年生より微増しています。
紙巻きたばこの使用よりは少ないものの、加熱式たばこの使用が紙巻きたばこの使用につながることも指摘されており、禁煙対策を進めるためにも、若いうちから依存性が高い成分も含まれる加熱式たばこの喫煙を習慣化させないことが求められます。
尾崎米厚:中高生の喫煙および飲酒行動に関する全国調査; 2018: 7-15
WHOが発表した2023年版の「世界保健統計」によると、すべての国で50%以下になるなど、世界でも喫煙率は低下傾向にあります。
男女あわせた喫煙率の平均値で見てみると、最も高いのはナウルの48.5%、日本は20.1%で89位です。日本は順位が低く、喫煙率は高くないように見えますが、成人の約5人に1人が喫煙しており、より一層禁煙運動を推進していく必要があります。
2016年のデータによると日本は加熱式たばこが全国的に販売されている唯一の国となっており、世界でつくられている加熱式たばこの96%が日本で販売されていることが分かりました16)。
日本は世界でもっとも加熱式たばこが手に入りやすい国となってしまっており、早期の規制が求められます。
田淵貴大著『新型タバコの本当のリスク』より
一方、海外では2022年12月時点で40ヵ国が電子たばこの使用を完全に禁止しており、42ヵ国では電子たばこのニコチン含有量やフレーバーなどの添加物も規制されています。
また、加熱式たばこは30ヵ国以上で販売と輸入が禁止されています17)。
世界保健機関(WHO)では、2023年12月研究結果を引用して、「電子たばこ(加熱式を含む)が喫煙者の禁煙に役立つという十分な証拠はなく、健康に有害で、特に子どもや若者の非喫煙者の間でニコチン中毒を助長する恐れがある」と指摘していますし、メンソールなどのすべての香料の使用禁止、従来のたばこと同じ規制措置を電子たばこに適用するよう各国に要請しました18)。
日本禁煙学会レポート「電子タバコや加熱式タバコなどの
http://www.jstc.or.jp/uploads/uploads/
World Health Organizaton: Urgent action needed to protect children and prevent the uptake of e-cigarettes.2023.
https://www.who.int/news/item/
電子たばこの持ち込みが禁止されている国・地域 | シンガポール、タイ、台湾、香港 (電子たばこ持ち込み禁止条約があり、最悪の場合は逮捕) |
|
---|---|---|
電子たばこの販売が禁止されている国 | 全面禁止 | アルゼンチン、インド |
ニコチン含有製品のみ禁止 | アラブ首長国連邦、インドネシア、ウルグアイ、オーストラリア、オマーン、カタール、トルコ、ブラジル、ブルネイ、ベネズエラ、ベルギー、メキシコ | |
EU*1 | ENDS(ニコチン入り溶液を吸入するタイプ)について、容量・濃度の制限、添付文書による若年者・非喫煙者の使用の非推奨、包装への警告表示、報道・刊行物などによる販売促進の禁止など | |
米国*2 | 米国食品医薬品局(FDA)は2020年に加熱式たばこの販売を承認したが、「安全を認めたことにならない」と声明。なお米国はFCTC(たばこ規制枠組条約)を締約していない | |
WHO |
2003年の総会で、たばこの消費等が健康に及ぼす影響から現在及び将来の世代を保護することを目的とした、FCTCを採択。2023年8月現在、日本を含む183ヵ国が締約している*3。 その中では「加熱式たばこはたばこ製品であり、FCTCによる規制が必要」としている*2 |
*1 国立保健医療科学院 生活環境研究部
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-
*2 日本禁煙学会:加熱式タバコおよび
http://www.jstc.or.jp/uploads/uploads/
*3 外務省「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/