腹部、おなかのあたりを痛がっている場合
子どもの表現はさまざま
小児科医は、子どもの表現に特に気を配ります。私が新米小児科医の時代、先輩先生から言われたことがありました、それは「子どもが、おなかが痛い・・・と言っても、本当におなかが痛いのかどうか注意しなければいけない。例えば頭が痛いときや、寂しいときなども、お腹が痛いと言う場合があり、様々な状況で子どもはおなかが痛いと言うものだ」と言われたことがありました。「腹」には本来の「おなか」の意味から「腹が据わる」のように度胸があるとか「腹を探る」のように、気持ちとか心、考え方等の意味もあります。おなかという表現が難しいのは医学の世界でも同じです。ここではおなかが痛くなったときのことを考えたいと思います。
子どもの腹痛の特徴
言葉を言わない、うまく表現できない子どもは、おなかが痛い場合に「動作」や「しぐさ」で合図を送る場合があります。例えば腸重積のとき、痛みを和らげるために膝をおなかの方に引きつけます。歩いている子どもでは、しゃがみ込んで腹痛を訴える場合があります。また痛みに対して不安になり、おとなにべたべたする子どももいます。子どもの微妙なメッセージは、日頃の子どもとの付き合いから分かるものですから「いつもと違う」と感じる感覚を育てることは、とても大切です。
おなか以外の原因で腹痛を訴えるものとして「風邪」「中耳炎」「ぜんそく発作」「尿路感染症」などがあるので、おなかだけでなく全身的な観点から診なければいけません。
ごく稀ですが、腹痛の原因に、急激に状態が悪くなる急性虫垂炎や腸閉塞もあるので、注意が必要です。
腹痛の原因を考える
子どもの腹痛で最も多いのが「便秘症」です。便が出ているかどうか?、最後に出たのはいつか?、子どもに聞いてみることが大切です。
おなかを優しく触ると、左下にころっと硬くなった便を触ることがあります。そして浣腸すると、今まであれほど痛がっていた子どもが、けろっと元気になるのが特徴です。便秘に対する対応は、かかりつけの医師と相談しながら、子どもに合った方法を見つけましょう。
便秘症の次に多いのが「感染性胃腸炎」です。おなかが痛くなって吐き出し、その後、下痢便が出ます。胃が痛いときと腸の動きが活発になり痛くなるのが特徴です。
腸の動きによる痛みは、間欠的で周期的な痛みが特徴です。腸重積のときの痛みも周期的です。
便秘症、感染性胃腸炎の次に腹痛の原因として考えられるのが「風邪」のときです。熱が上がる前に、おなかが痛くなる子どもが多くいます。中耳炎を合併しているときも、よく腹痛を訴えます。
難しいのは「心因性腹痛」です。何となくおなかが痛いという場合です。一度生活一般を見直してみましょう。きちんと睡眠がとれているかどうかは大事なことです。
注意しなければならない病気としては「緊急性のある腹痛」があります。「急性腹症」と言われる外科的病気です。その一つの例として、そけいヘルニア(脱腸)で陰嚢に出てきた腸が戻らなくなり、腫れてしまう場合です。これを「ヘルニアかんとん」と呼びます。先天性消化管奇形でその奇形が指摘されずに腸閉塞を起こす絞厄性(こうやくせ
い)イレウスは特に要注意です。おなかが痛いとき、おむつやパンツを脱がせて観察することも大事です。
その他、子どもの虫垂炎があります。子どもの虫垂炎は診断が難しく、破れて腹膜炎を併発しやすいので非常に怖いものです。
おなかが痛いときの対応
まず子どもが訴える痛みの程度を判断しましょう。我慢できないほどのときは緊急で医療機関を受診してください。我慢できる痛みの場合には、全身の状態をチェックしましょう。
・熱があるかどうか?
・せき・鼻水など、風邪の症状があるかどうか?
・便が出ているかどうか?、便が出ていれば便の性状をチェックしてください。
下痢便のときは急性の胃腸炎でしょう。血の混じっている便のときは、腸重積が考えられます。その場合には、これらの緊急対応が必要です。
・おなか全体を見てください。張っていれば緊急性があります。
・呼吸状態をきちんとチェックしましょう、ゼイゼイと喘鳴があるときは喘息のことがあります。
・呼吸が速いときは喘息や肺炎のこともあります。
軽く、何となくおなかが痛いという訴えは、意外と判断が難しいものです。これから痛みが強くなるかどうか、よく観察してください。痛みが強くなれば、緊急性があると判断し、速やかに医療機関を受診してください。
何となく繰り返しおなかが痛いときは、心理的問題があることが多いようです。おとなが気づかない些細なことが、子どもにとって、おなかが痛くなるほど心に傷を負わせることもあるので、親のちょっとした言葉や対応が、子どもにとって辛いこともあるのです。
集団生活をしている子どもでは、保育者との関係、友達との関係でおなかが痛くなることがあります。不安のある子どもには肌と肌との付き合いが大切です。抱いてみたり、手を握って安心させることなどは効果があります。話しかけ、おとなが子どもに注目していることを子どもに伝えることも大切です。「おなか」は実際の腹という意味のほか「心」という意味があります。
おなかが痛いときは、おなかが実際痛い場合と、心が痛い場合があることを忘れないでください。
実際に腹部に病気があるときの痛みは、緊急性のある場合が多くあります。
そしておなかだけでなく他の原因の場合もあるので「おなかだけ注目しないで」少し離れて全体を観察してください。