RSウイルス感染症について
息がゼイゼイしている状況を「喘鳴」(一般的には「ぜんめい」と発音しますが医療関係者は「ぜいめい」と発音しする人が多いようです)と言います。この「喘鳴」をしている赤ちゃんが受診すると小児科医は「RSウイルス感染症」を疑います。赤ちゃん以外の年齢では「喘鳴」の症状があるときは喘息ではと思うのですが赤ちゃんでは違います。
このRSウイルス感染症はどんな病気でしょうか。RSウイルスは鼻や口から肺までの空気が通る道である気道に感染するウイルスなのです。ウイルスがノドより上の上気道に感染したときには「感冒」いわゆる風邪で終わります。声の出る喉頭が感染の場の時は「クループ症候群」と言われる病名になります。症候群と言われるのはRSウイルス以外のウイルスでも同じような症状になるからです。さらに感染の主な場が気管支の時は「気管支炎」、肺の時は「肺炎」になります。気管支でも肺に近い気管支の一番狭い細気管支に感染の場があると「細気管支炎」と呼びます。元々この場所は狭いところです。ここに炎症が及ぶとさらに狭くなり喘鳴の伴う呼吸困難も強くなるのです。特に赤ちゃんは重症になりやすいのです。6か月以下の赤ちゃんは要注意です。
「喘鳴」以外に熱も伴うこともありますがあまり続きません。熱が下がってから喘鳴が出現したり熱がないこともあります。原因ウイルスがわからなかった時代「無熱性肺炎」と呼び赤ちゃんでは熱がなくても重症になることがあると言われていました。また呼吸困難を伴うと酸素不足から顔色が紫色になる状態(チアノーゼ)から「ブルー肺炎」とも呼ばれていたようです。
赤ちゃんの細気管支炎の原因がRSウイルスとわかるとさらに様々なことが明らかになりました。このウイルスは3歳までにほとんどの子どもたちは一度は感染します。一度かかっても何度も感染します。3歳以上の子どもたちや大人では風邪として処理されています。このウイルスに対する抗体もでき母親から赤ちゃんに抗体は移行しますが十分な感染防御にはならないので1か月以内の赤ちゃんにも感染します。感染経路はこのウイルスに感染した風邪症状の人の咳や接触により感染します。
RSウイルス感染症は特別な治療法はありません。症状を軽くする対症療法や呼吸困難を助ける治療しかありません。呼吸困難が強く哺乳ができなかったり夜眠れない場合は入院になります。点滴で水分補給をし、呼吸困難の程度で酸素投与や人工呼吸器で対応します。特に未熟児で生まれた赤ちゃん、心臓や免疫能が弱い病気を持っている赤ちゃんは重症化しやすいと言われています。そのためこれらの赤ちゃんはこのウイルスの抗体がある注射を接種して予防しています。
ゼイゼイしている赤ちゃんが受診するとRSウイルス感染症を疑い迅速診断検査をします。結果は約15分後にはわかるので対応をより正確にできるようになっています。喘鳴から喘息との区別が問題になりますがRSウイルス感染症のあと喘息になりやすいと言われているためこの二つの関係がどのようなものかは今後の課題です。
RSウイルス感染症は国が行っている感染症サーベイランスにおける小児科定点の対象疾患です。それによると秋から冬にかけて多くの患者が出ているようです。また2012年には例年よりこの感染症が多く報告され、一般の人にも新聞などを通してこの感染症を知る機会になりました。