主な学校伝染病
インフルエンザとは
インフルエンザは、インフルエンザウイルスによる感染症です。人に感染するインフルエンザウイルスは、毎年大小の流行を繰り返す病気で、A型とB型があり、毎年少しずつ変化する(抗原が変化すると専門的には言います)ため、その変化の程度で大小の流行が起こります。
A型インフルエンザでは全く違った抗原のインフルエンザが、約10年ごとに出現し、世界中で大流行します。これが新型インフルエンザと言われているものです。1918年に大流行したスペインかぜは第一次世界大戦の勝敗を決めるほど歴史的に重要なものでした。1947年のイタリアかぜ、1957年のアジアかぜ、1968年の香港かぜ、1977年のソ連かぜと大流行が起こりましたが、それ以後は新しいインフルエンザの出現がないため、いつ出てもおかしくない状態だと専門家は言っています。
新しいインフルエンザは、鳥インフルエンザウイルスとヒトインフルエンザウイルスが豚に混合感染し、その体内で新型インフルエンザウイルスに変化すると言われています。中国などで話題になっている鳥インフルエンザウイルスは人に感染していますが、このウイルスが人から人に感染していないためまだ大流行には至っていません。
インフルエンザの症状は?
突然の発熱、のどの痛み、せきの症状から始まります。一般的なかぜと違い、全身がだるく、間接の節々が痛むなど全身の症状が強いことが特徴です。しかし、これは小学生以上の子どもやおとなに見られる症状で、それ以下の年齢では、若くなるほど他のかぜとの区別が熱以外の症状ではつきにくくなります。
治療をしなければ熱は3、4日続き、ときに1週間近く続くこともあります。せきがひどくなり熱が下がらないときには、気管支炎や肺炎といった合併症を起こすこともあります。幼児は中耳炎を合併することも少なくありません。
問題になっている合併症は、インフルエンザ脳症です。ここ数年日本では200人から300人の子どもがかかっています。発熱後、一日とたたないうちにけいれんを起こし、なかなか止まらず救急車で病院へ行くことが多いようです。けいれんが止まっても意識状態が改善しないことがあり、早急な治療が必要になります。死亡率も高く、救命しても後遺症を残すことがあります。引き金はインフルエンザウイルスですが、どのように関与しているのかはまだわかっていません。解熱鎮痛薬との関係も疑われ、アセトアミノフェン以外の解熱鎮痛薬は、小児には使わないように言われています。
インフルエンザ対策は?
インフルエンザ対策には、まず予防接種です。65歳以上の人は国の定期予防接種に指定されており、費用の一部負担で受けることができますが、子どもは任意接種です。インフルエンザは恐れられていますが、ほとんどの子どもはひどいかぜ程度で治ります。接種してもほかの予防接種よりかかることは多いようですが、接種しておけば軽い症状で済むとも言われています。予防接種は流行する前に済ませておくことが大切です。通常12月の終わりから2月頃に流行するので、12月の中旬までに済ませておくことが理想的です。子どもは基本的に2回接種するので、希望する人は予定を立てておくといいでしょう。
このインフルエンザのシーズン中に突然発熱したときは、24時間以内に医療機関を受診した方がいいでしょう。医師がインフルエンザを疑った場合、迅速診断キットで検査します。検査で陽性が出れば、インフルエンザと診断できます。インフルエンザに効果のある薬は、発症してから48時間以内に使用することになっています。副作用が出るおそれが指摘されているので、使用するか否かは医師と保護者が話し合い決めます。通常、使用してから1、2日で熱は下がります。
最近「インフルエンザはかぜではありません」と国を挙げて注意を促しています。症状が重いこと、ときに重症の合併症があること、すぐにきちんとインフルエンザだと診断ができることで、ほかのかぜと区別がでつく病気になったからです。インフルエンザはただのかぜとは違いますが、感染症としての日常生活の注意点は基本的に同じです。規則正しい生活、十分な睡眠と栄養、不必要に人ごみへ行かない、帰宅時には手洗い・うがいをする。こういったあたりまえの感染症対策を生活習慣として身につけておくことが非常に大切です。
百日咳はせきが特徴の苦しい病気
百日咳は、「百日咳菌による長期間持続するせき」が特徴の感染症です。感染者の病初期に、多数の菌が痰などで飛散することで感染します。感染すると6~20日の潜伏期を経て、鼻水・せき・熱が出ます。この時期はかぜと区別できません。徐々にせきがひどくなり、1~2週間続きます。笛を吹くような特有のせきで、夜間にひどくなり、持続的なため顔はむくんできます。
小さい子どもほど危険
低年齢の乳児では、呼吸が止まる発作が起こることもあります。その結果、意識を失い、けいれんを起こし死亡する場合もあるのです。重症に至らなくてもせきは続き、回復までに百日もかかるということからこのような病名が付けられたのです。長引く特有なせきの症状からこの病気を疑い、血液検査で診断します。治療はせき止めと、この菌に有効な抗生物質を使います。
予防接種がいちばんの防止策
百日咳は、予防接種をすることが大事です。百日咳の予防接種は、1951年から三種混合ワクチン(百日咳、破傷風、ジフテリア)が行われるようになり、患者は減少しました。しかし、1975年、ワクチン接種により死亡者が出て社会問題となったことにより、接種は一時中止されました。中止されたことにより、再び患者が増加し、ワクチンの効果が再確認されました。1981年から改良された三種混合ワクチンの接種が再開され、再び患者は激減しました。現在のワクチンは、非常に安全なもので、定期接種として生後3か月から90か月の間に1期を3回、3週間から8週間の間に行い、1期の追加を1期の3回目以降1年から1年半の間に行うようになっています。
麻疹・風疹の発生状況
WHOによる2003年の年間患者発生数を見ると、日本の麻疹(はしか)の発生状況は8752人、風疹は2794人です。一方、アメリカでは人口が日本の2倍以上であるにもかかわらず、麻疹37人、風疹10人と圧倒的に少ないのです。この数字から日本では、いかに多くの子どもたちが麻疹や風疹にかかっているかがわかります。
2005年3月にアメリカでは風疹を排除したと世界に報告しました。一方、日本では2004年10例の先天性風疹症候群の発生があったと注意を促しています。
麻疹(はしか)とは?
麻疹とは麻疹ウイルスによるウイルス感染症で、発疹を伴う代表的な病気です。感染力があるため、一人発生すると免疫のない子どもたちは次々と感染します。特に集団生活の場ではパニックすら起こります。
予防接種のない時代には、子どもの成長に伴う通過儀礼のような病気として考えられており、多くの子どもたちが入院をしたり合併症で大変な状況にもなっていました。
感染すると10から12日の潜伏期の後、せき・鼻水・熱が3、4日続き、少し熱が下がった後、発疹が出て再び高熱が3、4日続きます。発疹の出る1日前から、発疹が出た後1日の間に、麻疹特有の粘膜心が口腔粘膜にできます。これが有名なコプリック斑というもので、70%の患者に認められます。
せき・鼻水はひどくなり、発疹が全身に広がり麻疹独特の状態になります。発疹はだんだんと癒合し、ぼたん雪のようになります。治ると色が赤から茶に変わり、治った後も数日残ることが特徴です。麻疹にかかると約30%の人が何らかの合併症を伴います。1000人に1人の割合で脳炎に、6%が肺炎に、7%が中耳炎に、8%が下痢を伴います。他に呼吸困難を伴う喉頭炎や心筋炎にもなることもあるのです。麻疹は免疫と関係のあるリンパ組織に感染して体全体の免疫力を弱めるため、合併症が重症化するのです。
風疹(三日ばしか)とは?
風疹とは風疹ウイルスによるウイルス感染症です。風疹は三日ばしかとも言われ三日もすれば治る幼児にとっては軽い感染症です。発疹の状態は麻疹に比べ細かいため、細雪のような発疹と言われています。
年齢が上がると、発疹以外に発熱・関節痛・後頭部のリンパ腺がはれるという症状が出るため、診断も容易になります。脳炎はまれですが、ときに血小板が減少する合併症も風疹が流行すると増加します。しかし、幼児の場合は発疹以外にはっきりとした症状がなく、診断は意外と難しいのです。また、3人にひとりは感染しても症状の出ない不顕性感染であり、ウイルスは発疹の出ている前後1週間以上排出しているので、症状による感染予防は限界があります。子どもにとっては風疹は軽い病気ですが、妊婦さんが妊娠前期に感染すると胎児に感染し、先天性風疹症候群になることが問題です。
対策は?
対策は麻疹・風疹の両疾患ともきちんと予防接種をすることです。2006年に予防接種の方法が変わり、麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチンと言います)が行われるようになりました。1期を1歳から2歳の間、2期を小学校入学前1年の間と2度行うようになりました。まだこれらの予防接種を済ませていない子どもがいれば、医師と相談するようにアドバイスしてください。麻疹・風疹はだれもが知っている病名ですが、診断は意外と難しく、経験のない小児科医や小児科専門医でない医師の診断時には注意が必要です。これらの病気が発生したときには速やかに園医と相談し、対策をとってください。
流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)とは?
おたふくかぜは、ムンプスウイルスによる感染症です。医学上は流行性耳下腺炎と言い、感染力が強くはやる病気で、耳下腺炎から耳下腺がはれる病気です。
感染様式は、唾液を介しての接触または飛沫感染です。ウイルスは耳下腺がはれる7日前からはれた後9日頃まで感染性を示し、最も感染性が強い期間は、はれる前1日からはれてから3日までと言われています。感染しても症状の出ない不顕性感染が30~40%あると言われ、顕性・不顕性いずれにしても終生免疫が得られるため、一度かかれば二度とかかりません。症状が出ない前から感染性があることや、不顕性感染が多いことから集団生活の場での感染防御はかなり難しい病気です。その結果、一度感染者が出ると流行が治まるまで次々と感染者が出ます。
おたふくかぜの特徴
潜伏期間は2~3週間で、耳たぶの下が少しはれ痛みを伴い、食事をするときに痛みを感じるようです。右左両側の耳下腺がはれることが多いのですが、ときに片方だけがはれることもあります。耳下腺は唾液を作る分泌腺で、ほかに舌下腺、顎下腺も唾液を作る分泌腺です。お多福顔はあごの下にある顎下腺がはれるとなります。耳下腺のはれは3~7日間ですが、ときに10日間もはれることがあります。
ウイルス疾患なので特別な治療はなく、おたふくかぜで注意すべきことは合併症です。
合併症
髄膜炎、脳炎
感染者の約10%に無菌性髄膜炎が合併すると言われていますが、多くは軽く済みます。熱がなかなか下がらない、頭痛、繰り返し吐く、首を曲げると痛いなどの症状があるときは無菌性髄膜炎を疑い、入院して髄液検査をします。まれに重いことがあるので症状が治まるまで入院し、経過を見ていきます。
睾丸炎、卵巣炎
睾丸炎は子どもではまれな病気です。思春期以降に感染した場合の合併率は20~30%と言われていますが、多くは片側性なので男性不妊になることはまれです。成人女性の場合は卵巣炎の合併率が5%で、骨盤あたりの痛みを伴います。
膵炎
激しい腹痛があるときに膵炎を疑います。3~7日間で徐々に症状は軽くなります。
難聴
感染者の2万人に1人が合併すると言われています。
おたふくかぜは子どものときに感染すると軽く済むと言われていますが、ときに合併症を伴うことがあるので、治るまでは注意して経過を見ることが大切です。
どのように予防する
集団生活の場では、感染者が出たときは登園停止です。登園許可の基準は「耳下腺、顎下腺又は舌下腺の腫脹ちょうが発現した後5日を経過し、かつ、全身状態が良好になるまで」とされています。耳下腺の痛み、はれがなくなった時点で医師に診察してもらい、登園可能か判断してもらいましょう。ただし感染者の隔離だけでは感染拡大の予防はできず、確実な対策は予防接種です。予防接種は1歳を過ぎればできます。予防接種をするかどうか、いつするかについては個々人の事情でいろいろです。かかりつけの小児科医と相談して決めましょう。
おたふくかぜは子どもの代表的な伝染性の病気です。一般的には軽く済みますが、ときに合併症があります。また意外と診断が難しいこともあるため、地域で流行しているかなど、症状の経過で総合判断しなければいけない場合もあります。おたふくかぜと診断されたらほかの人に感染させないように、はれが引くまで家で過ごしてもらいましょう。
水ぼうそう 昔とは違う認識
医学書には、ひどい水ぼうそうと天然痘は臨床的には区別がつかないと書いてありました。水ぼうそうのほうそう(疱瘡)はとうそう(痘瘡)すなわち天然痘を指すのです。昔の小児科医は水疱のある子どもを診たとき、水ぼうそうと天然痘を意識して診ていたのです。天然痘が地球からなくなった現在、水ぼうそうは子どものありふれた伝染病です。ここでは、この水ぼうそうについて考えたいと思います。
水ぼうそうとは?
水ぼうそうは水痘・帯状疱疹ウイルスによる感染症です。初めてこのウイルスに感染すると水ぼうそうになり、再活性化による再燃像が帯状疱疹になります。
水ぼうそう患者から飛沫感染し、約2週間の潜伏期を経て虫に刺されたような赤い発疹(発赤)が出ます。かゆみを伴い、周囲が赤い水疱を形成し、最後にこの水疱がかさぶた(痂皮(かひ))になります。この発
読みがなを入れてください。赤、水疱、痂皮の皮疹が同時に認められることが特徴です。
天然痘では時間とともに発赤、水疱、痂皮と変化していく点で鑑別できると専門書に書いてあります。全部の皮疹が痂皮になるまで5~7日かかり、全部が痂皮になればほかの人に感染しません。
発熱はないことも伴うこともありますが、低年齢ほど熱がないことが多いようです。おとなが感染すると高熱になり全身的にもかなりきつい状態になります。
おたふくかぜや風疹は感染しても症状の出ない不顕性感染が多いですが、水ぼうそうには不顕性感染がほとんどありません。
母子免疫は少しありますが、発症を阻止するほどではありません。その結果、新生児期より発症しますが、母子免疫によるため生後6か月以内の感染は軽くすむことが多いようです。
白血病などでステロイド剤服用中の免疫不全状態で感染すると、重症になり死に至ることもあります。これを避けるために予防接種が開発されました。
治療の方法は?
発疹が出てから48時間以内にウイルスのDNA合成を阻止する抗ウイルス剤を使用すると、発疹の数が少なくなり、全部が痂皮になる時間を短縮できます。要するに症状が軽く済み、早く治ると言われています。しかし、もともと子どもにとって軽い感染症なのでこの薬を使うか使わないかは医師と相談しましょう。かゆみが強いときには抗ヒスタミン剤を使います。またかゆみ止めの塗り薬もあります。かゆみが強いために皮膚をかき、二次的にブドウ球菌による皮膚の感染症になったときは抗生物質を使います。
どう予防する?
集団生活の場では感染者が出たときは登園停止です。登園許可の基準は「すべての発疹が痂皮化するまで」とされています。集団生活ではひとり感染者が出るとほとんどの非感染者が感染するほどの感染力があります。発疹が出る1、2日前から感染性があるためです。
感染予防の確実な対策として予防接種があり、1歳を過ぎれば接種できます。予防接種をするかどうか、いつするかについては個々人の事情でいろいろです。かかりつけの小児科医と相談して決めましょう。
子どものうちに対策を
水ぼうそうは子どもの代表的な伝染性の病気で一般的には軽く済みます。対策には予防接種、発病後の抗ウイルス剤の使用、経過が軽いため自然に任せるなどいろいろあります。子どものときの感染は軽いのですが、おとなになってからの感染は、ときに重症と言われることもあります。
人生のいつかは感染する病気なので、かかりつけの小児科医と相談して対応策を考えておきましょう。