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令和元年(2019年)7月20日(土) / 日医ニュース

「医師の偏在対策」など多岐にわたる質問に執行部から回答

1 医療事故調査制度について

 稲野秀孝代議員(栃木県)は「医療事故調査制度に基づく調査が必ずしも医療機関に資するものになっていない」として、制度の運用改善を求めた。
 城守国斗常任理事は、患者・国民ばかりでなく、医師、医療提供者からも信頼を得る制度にしなくてはならないと指摘。日医としても責任追求的な事故調査が行われることのないよう、標準的な事故調査の手法を確立し、都道府県医師会を通じて広く全国の支援団体に普及することを目指して、会内の「医療安全対策委員会」において検討していることを明らかにした。
 更に、本制度が安定した運用をしていくための取り組みとして、「院内事故調査の手法を全国的に均質化していくこと、その際には院内調査を支援する立場である医療事故調査等支援団体の役割を明確にすることが極めて重要である」と述べるとともに、研究代表を務める厚生労働科学研究班において行っている支援団体の活動の実態把握調査結果を踏まえ、本制度の改善に向けて引き続き検討していくとした。

2 日本の医療体制の未来について

 医師自身の判断による専門性や開業の選択について堅持する考えはあるのか、また、特定圏域においては制限される可能性はあるのか、日医の見解を問う馬瀬大助代議員(富山県)からの質問には、今村副会長が回答。
 同副会長はまず、「個々の医師の判断による診療領域の選択及び開業の選択は、日医として今後もその権利を尊重し、強制的手法による制限を排除していく方針を貫いていく」と強調。①厚生労働省の医師需給分科会においても強制力をもって開業を制限すべきとの意見に強く反対してきた②「外来医師多数区域」では、当該地域で不足する外来機能を求めるとされているが法的な強制力を持つものではなく、不足する機能とされる在宅医療、初期救急医療、学校医など、まさに医師会活動そのものである―こと等を説明し、理解を求めた。
 また、診療領域の選択については、「診療科偏在への対応は不可避であるが、その解消のためには強制的手法を回避するとともに、専門研修のみに特化せず、医師養成課程を通じて行われるべきである」と指摘。各都道府県における十分な議論を求めた。

3 外来医師多数区域における外来医療機能の偏在対策について

 平田泰彦代議員(福岡県)からの、外来医師多数区域における外来医療機能の偏在対策に関して、地域医師会の調整権限や役割・責任について日医の見解を問う質問には、羽鳥裕常任理事が回答した。
 同常任理事は、近年、医業経営コンサルタントや医療モール等によって診療所の開業が誘導され、医師側もその地域の医療状況が分からないまま開業している現状を問題視。これらの問題を解決するためにも、郡市区医師会長が議長を務める地域医療構想調整会議(以下、調整会議)が地域医療の提供者を代表する立場から大きな役割を担っているとした上で、医師自らが自主的に経営判断できるよう、①地域の医療需要・医療資源の客観的データを見える化し、提供する②調整会議で協議を行う場合、公平、公正な議論をする―ことが重要との考えを示した。
 また、その役割・責任については、「地域の実情に応じて医師の偏在是正を進めていく役割を担えるのは地域医師会しかなく、日医が全国一律の方針を定めるのは適切ではない」として、都道府県医師会並びに郡市区医師会が公正な立場で外来医療の調整機能を主導するよう求めた。

4 外国人患者に対する医療機関の体制整備として、団体契約による電話医療通訳の全国展開について

 髙田重男代議員(石川県)が、外国人患者に対する医療機関の体制整備として、団体契約による電話医療通訳の有用性及び全国展開を促す必要性に言及し、日医の見解を問う質問に対しては、松原謙二副会長が回答した。
 同副会長は、今後、訪日外国人・在留外国人は更に増加し、一般の医療機関を受診することが予想されることから、医療通訳の問題を早急に解消する必要があると指摘。そのための具体策としては、「依頼が比較的容易で価格等の点でも使いやすい電話医療通訳が全国的に普及させる手段として大変有効である」との見解を示した上で、日医としても医療通訳者やICT等の機器による自動翻訳と電話通訳を場面ごとに組み合わせ、会員が安心して医療通訳を利用できる仕組みの構築に取り組んでいく考えを示した。
 また、医療通訳に関する政策が、地域の診療所や中小病院にも整備され、更に、恒久的な政策となるよう、国に要請していくとするとともに、本年秋頃に、「第2回外国人医療対策会議」を、年度内に「医療通訳団体等連絡協議会」を開催し、都道府県医師会と医療通訳との間での認識が共有できるよう検討していくとした。

5 児童虐待防止のための医師会としての取り組みについて

 川上一恵代議員(東京都)からの児童虐待に関する三つの質問(①会員への啓発②防止に向けた取り組み方針③世代間連鎖を断ち切るための対応)には、道永麻里常任理事が回答した。
 ①については、子育て支援フォーラムの開催など、日医のこれまでの活動を説明した上で、行政や自治体、学会などが開催している研修への積極的な参加や医師会の協力を推進していくことも必要になるとした。
 ②に関しては、自治体や保健師等と連携・協力することにより、児童虐待の予防や早期発見・早期対応に結びつけることができると指摘。「要保護児童対策地域協議会に医師会が参画していない地域においては、医師会が構成機関となるよう働き掛けて欲しい」と述べた。
 ③については、「関係職種、関係団体と連携し、方策を検討すること」「国民への啓発や児童生徒に対する教育」が必要との考えを示すとともに、日医としても引き続き、会内の委員会や講習会等で児童虐待に関する事項を取り上げ、積極的に児童虐待防止に向けた政策提言を行っていくとした。

6 医師不足地域における医業承継問題について

 医業承継問題に対する日医の考えを問う星北斗代議員(福島県)の質問には、平川俊夫常任理事が回答した。
 同常任理事は、今後の診療所による診療体制の維持発展のためにも、高齢化する医師が抱える医業承継問題への対策が喫緊の課題であるとするとともに、本問題の解決のためには、「経営の安定化」「地域医療の安定化」の二つの観点から考えていく必要があるとして、これまでの日医の対応を説明。
 その上で、①現在、秋田県で民間事業者と協働して実施しようとしている医業の第三者承継のトライアルを、大都市圏でも行うことを検討している②都道府県医師会による「地域の診療所第三者承継の支援事業」への予算措置を要望している③都道府県医師会担当理事連絡協議会を9月下旬に開催予定である―ことを説明。引き続き、本問題に積極的に取り組んでいくとして、理解と支援を求めた。

7 都道府県保険者協議会と第2期医療費適正化計画の実績評価について

 安東範明代議員(奈良県)からの三つの質問には、江澤和彦常任理事がまず、保険者協議会への都道府県医師会の参画状況について、オブザーバーを含めると全ての協議会へ都道府県医師会が参画していることを説明した上で、「正式な構成員としての参画が19協議会あり、全都道府県医師会に正式な構成員として参画して頂きたい」とした。
 第2期全国医療費適正化計画の実績評価については、特定保健指導実施率の目標は達成されていないものの、医療費に関しては平成29年度の実績見込みは推計よりも約2.2兆円下回っていることなどを報告。国の推計ツールについては、各地域の実情が反映されておらず、各都道府県で目標達成の差が出るのは当然だとの認識を示した。
 また、「急性期病床から回復期病床への移行による平均在院日数の増加によって、医療費が増加するのでは」との懸念に対しては、「そのような傾向の地域が出ることは想定していない」とするとともに、「引き続き、地域の医療機能の分化・連携等の提供体制の動向を注視していきたい」と述べた。

8 医師会立看護師養成学校の存在意義を問う

 医師会立看護師養成学校に関する釣船崇仁代議員(長崎県)の質問に対して、釜萢敏常任理事は「養成所の果たす役割が、地域の医療・介護を支えるために不可欠であるとの考えは変わっていない」と強調。入学者が定員を大きく割り込み、医師会からの繰入金が工面できない事態に対しては、近隣の養成所の連携・統合も選択肢として考えることができるよう、厚労省とも折衝していくとした。
 柔軟なカリキュラムの作成と財政面の支援を求める意見に対しては、現在、厚労省の検討会においてカリキュラムに関する議論を行っていることを報告。財政支援については、養成所の運営の窮状を更に国に訴え、補助金増額を求めていくとした。
 また、養成所の諸問題を共有し、解決を図るため、全国的な協議の場を設けて欲しいとの要望には、「日医の役員も出向いてお話を伺うので、ぜひ、ブロック毎に協議の場を設けて欲しい」と述べ、理解を求めた。

9 地域医療構想における公立病院との調整のあり方について

 阿久津光之代議員(北海道)は、地域医療構想を進めていく際の公立病院との調整のあり方について質問。中川副会長は、日医の提案により、問題のある公立・公的医療機関等を、①他の医療機関による役割の代替可能性があるもの②再編統合の必要性について特に議論が必要なもの―という二つの類型に位置づけることになったことを説明。このことが、全国の地域医療構想調整会議活性化の起爆剤となり、医師会を中心とした医療関係者の地域医療への熱い想いが結実することに期待感を示した。
 また、公立病院の医療機能が民間と競合するにもかかわらず、総合入院体制加算の施設基準のために診療科を存続させているのではとの懸念に対しては、本末転倒とし、このような事例に対しては、調整会議の議長と首長が定期的に意見交換するなどの仕組みを設けることについて検討を始めているとして理解を求めた。

10 警察医部会などの全国組織化について

11 日医の強力なリーダーシップによる警察医会(仮)の全国組織化を望む

 鈴木伸和代議員(北海道)並びに堂前洋一郎代議員(新潟県)からの、警察活動に協力する医師の組織化への対応等を問う質問には、城守常任理事が一括答弁を行った。
 同常任理事は、まず、平成26年に日本警察医会が解散し、都道府県医師会に「警察活動に協力する医師の部会」の設置を要請したことなど、これまでの経緯を紹介した上で全国組織化の進捗状況を説明。「日医と警察庁を始めとする中央省庁との協議により調整を図ることが重要であり、全国的な規模での調整の際には、省庁の枠を越えた検討が不可欠である」とするとともに、本年6月6日に衆議院本会議で可決成立した「死因究明等推進基本法」については、政府レベルの協議の場を設置する後ろ盾となるとの認識を示した。
 日医が実施している研修を、レベル別に細分化してはどうかとの提案に対しては、日本法医学会と協議を行うとした他、厚労省の委託事業として一部地域で先行して実施している「死体検案相談事業」の概要も合わせて紹介。できるだけ早い時期に全国の警察活動に協力する医師にも案内する意向を示した。
 同常任理事は最後に、大規模災害時への対応などで警察活動に協力する医師を組織化することの重要性を強調し、関係者への協力を呼び掛けた。

12 医療勤務環境改善支援センター事業の課題と今後の展開について

 松山正春代議員(岡山県)からの医療勤務環境改善支援センター事業の課題と今後の展開に関する質問には、松本吉郎常任理事が回答した。
 同常任理事は、医療機関が医師の労働時間を管理する重要性に触れた上で、同センターには医療業に関する研修を受けた社会保険労務士が在籍しており、専門知識を持って医療機関を支援できる仕組みであることを強調。
 また、関係団体との連携の素地があり、全域に地域の医師会の活動基盤がある都道府県医師会が本事業を受託することで効果的に事業が浸透するとの見解を示し、「現在、13医師会で受託されているが、各都道府県医師会においてはできる限り受託して頂くか、運営に積極的に関わって頂きたい」と要請した。
 また、同センター事業の活性化に向け、「勤務環境の取り組みを評価する診療報酬の加算」について中医協で議論するとともに、病院長向けトップマネジメント研修に対する来年度予算の増額を厚労省に要望しているとし、今後もセンター充実強化のための予算の確保に取り組んでいくとした。

13 改正健康保険法に示されたマイナンバーカードの保険証利用への対応について

 目々澤肇代議員(東京都)からの、マイナンバーカードの健康保険証利用などに関する日医の見解を問う質問には、石川広己常任理事が回答した。
 同常任理事はまず日医が、「マイナンバーによって管理される個人の所得等の情報と、究極の個人情報である機微性の高い医療情報を結びつけてはならない」という方針の下、国の審議会等に臨んできたとした上で、今回、法律に規定されたマイナンバーカードによるオンライン資格確認については、「マイナンバーカードのICチップを用いて保険の有効性を確認する仕組みであり、マイナンバーそのものではない」と説明。
 「マイナンバーカードの券面には医療保険に関する情報は記載されないため、カードリーダーや回線設備のない医療機関においては、従来どおり健康保険証で資格確認を行うこととなる」とするとともに、全ての医療機関でメリットを享受できるよう、医療等分野専用ネットワークの構築を始めとするインフラ整備を進めていく必要があるとの考えを示した。

14 診療報酬改定後の新規導入項目の動向調査を

 松本卓代議員(兵庫県)から新規導入された診療報酬項目について改定後に動向調査を行い、その結果検証を求める意見に対しては、松本常任理事が回答した。
 同常任理事は、中医協では前回改定の「答申書」附帯意見に基づく現場での影響を調査・検証の上、次回改定で修正するという流れが確立しており、今期も、かかりつけ医機能等の外来医療に係る評価等に関する実施状況調査の結果を基に、中医協として調査・検証した上で、次期改定に向けた議論に資することになるとした。
 その上で、現在、中医協において2020年度改定に向けた総論的な議論を行う中で、既に、「患者・国民に身近な医療の在り方について」として、かかりつけ医機能のあり方の議論が行われ、その際には検証調査や社会医療診療行為別調査の結果が活用されていることを紹介。引き続き、医療費の動向、社会保険医療診療行為別調査、ナショナルデータベース(NDB)等、さまざまなデータを活用しながら、診療報酬改定に臨んでいく姿勢を示した。

15 組織強化策としての大学院生対策と医師国保

 宮城県医師国保組合における大学院生の保険料引き下げの動きを紹介した上で、日医の方針を問う橋本省代議員(宮城県)からの質問には、小玉弘之常任理事が答弁を行った。
 同常任理事は、全国医師国民健康保険組合連合会(以下、全医連)と大学院生に係る現状について、まずは認識を共有したいとする一方で、「日医としても大学院生に対する多方面からの支援を惜しむものではないが、大学院生の会費本体部分での減免を実施するには、日医の事業が基本的に会費収入で賄われていることや減免分を他の会員の会費によって補われること、更に入会時あるいは入会後に大学院生になった人と修了した人をいかに捕捉するか等の留意すべき点もある」と指摘。
 今後については、「医師国保組合と医師会が連携したさまざまな取り組みが大学院生や若い医師に、医師会は常に門戸を開いているというメッセージになれば大変意義がある」として、引き続き、全医連と協議を重ねていく意向を示した。

16 医師の働き方改革推進と偏在問題解決に向けた提言

 加藤智栄代議員(山口県)は医師の働き方改革推進と医師の偏在問題の解決に向け、①時間外労働が多い診療科の医師個人に対し、診療報酬上のインセンティブを付与する②救急車の有料化を図る―を提言した。
 長島公之常任理事は、①について、制度上困難とした上で、「医師の負担を減らすために必要な対策には診療報酬でしっかりと手当てを行う」「各地域の実情に応じて地域医療介護総合確保基金の活用法を検討する」「各都道府県で開催される医療機関のトップマネジメント研修において、勤務した内容に応じた適切な配分や健康管理の重要性について改めて経営者に認識してもらう」などを考えていると説明。
 ②については、有料化には解決すべき問題が多いことから、「♯8000」「♯7119」の更なる拡充と全国的な質の確保など、救急車利用の適正化を図っていくとした他、高齢者の救急搬送増加に対応するため、かかりつけ医機能の更なる推進と地域包括ケアシステム構築・充実のための支援等を行っていく考えを示した。

当日の詳細は『日医雑誌』8月号別冊をご参照下さい。

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