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令和元年(2019年)6月20日(木) / 日医ニュース

「会員の倫理・資質向上をめざして―都道府県医師会の取り組みおよびケーススタディから学ぶ医の倫理―」

「会員の倫理・資質向上をめざして―都道府県医師会の取り組みおよびケーススタディから学ぶ医の倫理―」

「会員の倫理・資質向上をめざして―都道府県医師会の取り組みおよびケーススタディから学ぶ医の倫理―」

 ワークショップ「会員の倫理・資質向上をめざして―都道府県医師会の取り組みおよびケーススタディから学ぶ医の倫理―」が5月23日、日医会館小講堂で開催された。
 羽鳥裕常任理事の司会で開会。冒頭あいさつで横倉義武会長は、「人生100年時代を迎え医療を取り巻く環境は変化しているが、医療は医師と患者の信頼関係が基本となることに変わりはない。国民から医師に対する信頼を得るためには、一人ひとりの倫理の更なる向上が重要になる」との認識を示した上で、日医では生涯教育制度の充実を図る中で、『医師の職業倫理指針』の改訂や『医の倫理について考える―現場で役立つケーススタディ』の作成など、会員の倫理向上に努めていることを報告。「医療・医学が進歩する中においては、新たな倫理課題が提起される。医の倫理は継続的な検討を必要とする課題であり、今日の議論を深めてもらう中で、その成果を日々の診療に生かして頂ければ幸いである」と述べた。
 続いて議事に移り、「生命・医療倫理学の現状と今後の展望」と題して講演を行った赤林朗東京大学大学院医学系研究科医療倫理学分野教授は、人工妊娠中絶や出生前診断などの「生命の開始時をめぐる問題」、尊厳死や脳死臓器移植などの「生命の終末時など死をめぐる問題」には、新しい医療技術なども含めて必ず倫理問題が伴うものであり、今後も変わることはないとした。
 また、倫理委員会については、医学研究の妥当性に関して1例ずつ慎重に審査し、社会に報告を行うなど一定の機能を果たしており、新しい医療技術が信頼された形で社会的に定着していく際の必要条件であると指摘。
 更に、研究倫理に関する規制については、法律や行政及び学会のガイドライン等はあるが、誰が、何に、どのような形で「合意」をするのかルールが無い現状の中で、誰がどのレベルで規制を掛けるのかが問題であるとの考えを示した。
 その上で、同教授は、「多くの人は"倫理"を窮屈なものと考えているかも知れないが、医療の倫理を考えるとは、『よりよい医療とは何か』『よりよい患者・医療従事者関係とは何か』を考えることに他ならず、決して気高い崇高な道徳観を押し付けるものではない。身近なものであると考えて欲しい」と述べた。

二つの事例について活発に討議

 引き続き、樋口範雄会員の倫理・資質向上委員会副委員長から、「討論の課題と進め方」についての説明が行われた後、二つの設例について、参加者が六つのグループに分かれて討議を行うワークショップ形式によるケーススタディが行われ、全体討議では、グループによる議論の内容が発表された。
 事例①:悪い検査結果の通知のあり方(66歳男性。生検と画像診断の結果、脊椎に転移した前立腺がんであることが判明。その日の午後、検査の結果を踏まえ、家族を交えて相談をすることが予定されていたが、従来から病院に付き添っていた患者と同居している娘に病院内で偶然会い、結果を告げると、父である患者には結果を告げないで欲しいと懇願されたことへの対応)
 事例①に関しては、患者本人への告知が大前提との意見が多数を占める中で、患者によってはどのように伝えるべきか、また、患者あるいは家族に伝えるべきかを事前に話し合うことも重要であるとされた他、医師会からの、インフォームド・コンセントの周知が必要との意見が出された。
 事例②:医療安全について(68歳男性。A病院に入院し栄養補給のために大腿部の静脈からカテーテルが挿入された後、転院先のB病院でワイヤーが静脈内に留置されていることが発見され、ワイヤーとカテーテルを抜去する際に死亡。司法解剖の結果、心臓周囲に出血が見られ、ワイヤーの先端が心臓壁を突き破っていたことが考えられた。ワイヤーはA病院でカテーテルを誘導する際に使われたものであったが、B病院が会見し「捜査に全面的に協力」「病院として申し訳なく思っている」と謝罪。一方、A病院は「私たちに非がある」「警察の捜査に協力して結果を待ちたい」とコメント。これら事件発生後の、A、B病院の対応並びに今後の対応)
 事例②に関しては、全てのグループから医療事故が発生した場合、先ずは医療事故調査・支援センターに届け出るべきとの見解が示され、今後については、A、B病院合同で調査を行うべきとした他、医師会から各医療機関に対して、医療事故調査制度活用への周知・徹底が重要との意見が出された。
 最後に、森岡恭彦会員の倫理・資質向上委員会委員長(日本赤十字社医療センター名誉院長/日医参与)が、日本の不正医学論文撤回事件について触れ、「1件でも疑わしいことがあると周りも信用されなくなる。そのことを日頃から念頭に置きながら日頃の業務に当たって欲しい」と総括し、ワークショップは終了となった。

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