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令和元年(2019年)6月5日(水) / 日医ニュース

「医学と医療の深化と広がり~健康長寿社会の実現をめざして~」をメインテーマに開催

「医学と医療の深化と広がり~健康長寿社会の実現をめざして~」をメインテーマに開催

「医学と医療の深化と広がり~健康長寿社会の実現をめざして~」をメインテーマに開催

 第30回日本医学会総会2019中部が4月27日から29日の3日間、「医学と医療の深化と広がり~健康長寿社会の実現をめざして~」をメインテーマとして、名古屋国際会議場を中心に開催され、全国から医師を始め医療関係者約3万人が参加した。
 今号では主な講演並びにセッションの内容を紹介する。

 開会式では松尾清一副会頭が開会宣言を行った後、門田守人日本医学会長が開会の辞を述べ、「本総会での議論が医療関係者のみならず、一般社会の方々にフィードバックされることで、今回のメインテーマにもあるように医学と医療が深化し、広がりを持つようになることを期待している」とした。
 次に、主催者を代表してあいさつに立った齋藤英彦会頭は、「世界有数の長寿国となった日本の社会保障制度の持続性、ゲノム医療等の問題についても、ぜひ本総会で議論を深めて欲しい」と開催に当たっての抱負を述べた。
 来賓祝辞を述べた横倉義武会長は、グローバル化時代を迎えた日本の医療や超高齢・少子社会における医療のあり方など、現在の医学・医療界が直面している問題が取り上げられていることに言及。本総会での講演や議論が、これらの問題解決の糸口になることに期待感を示した。
 最終日に行われた閉会式では、齋藤会頭が「未来の医療につなげる基礎・臨床医学研究の推進」「多様な社会構成に対応できる医療環境の整備」「多様化する医療人の育成、配置、労働環境の整備」「国境の垣根を超えた医療の推進」の四つを柱として、健康長寿社会の実現に向けて努力することを宣言した「健康社会宣言2019中部」を公表。
 その他、医学上、優れた業績を上げた若手研究者を表彰し、今後の医学会を活性化するため、本総会で新設された「日本医学会総会奨励賞」の授賞式も行われた。

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日本医師会長講演「日本医師会の医療政策~健康な社会を作ろう~」 横倉義武日本医師会長

20190605a4.jpg 横倉会長は、冒頭、日医の初代会長である北里柴三郎先生が、2024年度から発行される新千円札の肖像に選ばれたことに触れ、「現千円札は野口英世先生だが、2代続けて医師が肖像となったことは、医療が社会に欠かせないものという裏付けでもある。日医は、調査・研究や国際交流などを通じて、これからの医療のあり方を考え、より働きやすい医療環境づくりと国民医療の推進に努めていく」と強調。1948年に日本医学会と統合してからは、日本医学会総会の開催を始め、各種事業を協力して展開し、車の両輪となってわが国の医学・医療を牽引してきたことを概説した。
 健康長寿社会に向けた取り組みに関しては、「日本の年齢層別人口割合の推移」のグラフから、「65歳から74歳の世代が社会を支える側になれば、2025年でも15歳から74歳が人口に占める割合は70%となる。従って、この世代の方々に健康な長寿社会を迎えてもらうことが、わが国が高齢社会を乗り切る鍵である」と述べ、そのためにも、国民皆保険制度を維持していくことや、健診データ等の一元化による健康管理が重要であるとした。
 また、生涯現役社会を実現することで雇用が延長されれば、健康な高齢者も増加し、医療費や介護費の伸びも軽減できるとの見解を示すとともに、社会保障の財源として、消費税の増加分やたばこ税の引き上げで賄うことや、企業の内部留保を賃金の引き上げに充てることで社会保障の充実を図ることを求めていると説明した。
 この他、日医がかかりつけ医のバックアップのため、研修制度や生涯教育制度の充実に取り組んでいることを紹介し、「医師の役割は、診断・治療だけではない。人生100年時代を健やかに過ごすためには、予防が重要である。かかりつけ医の役割はますます高まり、学校医や産業医として、地域で活動することも重要になってくる」と強調。「令和」の時代においても、日医は、国民に寄り添い、国民の健康・医療を守り続けていくとした。

 

日本医学会長講演「社会と共に進化する医学会総会」 門田守人日本医学会長

20190605a5.jpg 門田日本医学会長は、昨年が明治維新150周年の節目であったことに触れ、近代国家が発展したこの期間に、医療も大きな発展を遂げてきたことを概説。外国人教師を雇い、日本から西洋に留学するなど近代西洋医学を積極的に取り入れ、実践する中で、1890年には第1回日本医学会が開催されたものの継続できず、1902年に第1回日本聯合(れいごう)医学会として立ち上げられたものが、以後4年ごとに開催され(第3回目からは日本医学会に改称)、現在まで続いてきたとした。
 更に日本医学会の歩みについて、「創立から敗戦」「戦後昭和期」「平成」に分けて説明。総会を開催することを目的に存在していた日本医学会が1948年に日医と合流して恒久的組織となり、昭和時代の総会テーマでは「医の倫理」(1959年)や「分化と総合」(1967年)を、平成時代では「転換期に立つ医学と医療」(1991年)、「人間性の医学と医療」(1995年)などを掲げ、インフォームド・コンセントや尊厳死等の社会的コンセンサスの形成にも取り組んできたとした他、現在は132学会(基礎14、社会19、臨床99)が加盟し、学会員総和は99万7,185人に達していることを報告した。
 現在のわが国の医学については、がんゲノム等目覚ましい科学技術の進歩が見られる一方、ゲノム編集技術等の開発における倫理的問題や、HPVワクチンの接種率低下に伴う子宮頸がん患者の増加など、さまざまな課題を抱えていると指摘。医学会の課題として、論文数の減少、論文不正、研究費の減少などを挙げ、その背景にある研究者のプロフェッショナリズムの欠如や、政治・経済その他の社会的要因についても考えていく必要があるとした。
 その上で、「学術団体はポピュリズムや個別の利害得失を目指すものであってはならず、個別組織を超越した真理を追求し、地球上で起きる事象に対して、しっかりとした信念をもって明確な方向性を示す必要がある」とし、意見を述べるに留まらず、行動する組織になることが、学術団体である日本医学会の社会的責務であると結んだ。

 

会頭講演「医学・医療と生老病死:不変の精神と技術革新」 齋藤英彦第30回日本医学会総会会頭

20190605a6.jpg 齋藤会頭は、平均寿命の延伸により、世界有数の長寿国となった日本において、いかに健康長寿社会を実現していくかについて言及した。
 同会頭は、①日本人の平均寿命は、戦後間もない1947年には男性50歳、女性53歳であったが、その後急速に伸び、2017年には男性81歳、女性87歳となった②百寿者は1963年の153人から2018年には約7万人と、450倍にも増加している―こと等を説明。その要因としては、比較的平等な社会が実現したことの他、高い教育レベル、経済の発展、そして医療の貢献が考えられるとした。
 その一方で、「男性の平均寿命は81歳、健康寿命は72歳、女性の平均寿命87歳、健康寿命74歳で、日常生活に制限がある期間、介護期間が男性で9年、女性で13年の差がある」として、平均寿命と健康寿命に格差があることを問題視。「その差を縮めることが大きな課題である」と述べた。
 更に、これから高齢者はますます増え、労働人口は減少、高齢者の医療・介護費も増加していくとし、その対応策として、国民皆保険制度、地域包括ケアシステムを前提とした疾患予防・介護予防の推進、革新的技術を用いた効率化や省力化を図ること等を提案した。
 また、「ゲノム医療」「再生医療」については、これまでの常識や生命倫理の枠を超える可能性があり、医師にはより高い倫理規範の下に、有効性や安全性を慎重に確認することが求められるとした他、ビッグデータの活用に当たっては個人情報保護の観点から慎重な対応が必要になるとした。
 その上で、同会頭は「医学・医療は、不変の精神と技術革新により、人々の生命と健康を守り、人々に希望を与えることが期待されている。技術革新がすさまじい速度で進んでいる今こそ、社会的コンセンサスを得ることが不可欠になる」と強調した。

 

開会講演「健康長寿社会を支えるトランスフォーマティブエレクトロニクス」 天野浩名古屋大学教授

20190605a7.jpg 世界で初めて窒化ガリウム(GaN)の高品質結晶創製に成功し、青色発光ダイオード(LED)の発明により、さまざまな分野に技術革新をもたらした2014年ノーベル物理学賞受賞者の天野教授は、今後更にその可能性が期待されるGaNを活用した取り組みを紹介した。
 GaNは、発光や電力制御、無線通信等さまざまな電子デバイスとして、従来のシリコン等と比べて電力変換をする際の低損失、高効率を実現できる、次世代省エネルギー化の救世主となるパワーデバイス材料として研究が進められている。
 同教授はまず、新材料を用いた未来のエレクトロニクスを"トランスフォーマティブエレクトロニクス"と名付け、「持続可能社会実現のためのエネルギーシステム」「快適・安心・安全な社会システムの構築」に向けて、エネルギー変換効率100%を目指して研究中であることを報告。「現在は、いつでもどこでも安心してつなぐことのできるInternet of Energy(IoE)社会を実現する切り札としてワイヤレス電力伝送網の開発が進められているが、研究成果は必ずや高齢者向けパワーアシストロボット用駆動回路、体内センサーへの無線による電力供給や緊急時の無線電力供給等、これからの日本の重要課題の一つである高齢化に対応した新しいインフラ構築に欠かせないツールになる」と強調した。
 その上で、同教授は、「人口減少と急速な高齢化という、今まで経験したことのない事態に直面し、我々研究者には、持続可能かつスマートな次世代社会インフラを構築することが求められている」と指摘。分野を超えたつながりがもたらす新しい科学とイノベーションのためにも、産官学連携による人事交流を加速させることが重要になるとの考えの下に、さまざまな分野の専門家が集結した「GaN研究コンソーシアム」を立ち上げ、最先端の知見・研究成果の蓄積と活用を図っているとした他、次世代育成のため、企業との協働プログラムを始めたことなどを紹介し、「健康長寿社会の実現に向けて、工学の分野でできることに尽力していきたい」と述べた。

 

セッション「地域医療構想・医療計画」

20190605a8.jpg 中川俊男副会長らが座長を務め、「地域医療構想・医療計画」をテーマとしたセッションが行われた。
 中川副会長は地域医療構想について、「不足する病床機能を整備するためのものであり、病床を削減するための仕組みではないことを改めて確認したい」と述べるとともに、「病床機能報告と地域医療構想における病床数の必要量は必ずしも一致することはなく、一致させる必要もない」と強調した。
 また、厚生労働省が示した「定量的な基準」に関しては、「各構想区域の実態を把握するためのツールに過ぎず、必ず導入しなければならないものではない」として理解を求めた。
 地域医療構想調整会議(以下、調整会議)については、その活性化を図るため、地域医療構想アドバイザーの配置などを提言し、実現してきたことを報告。公立・公的医療機関に関しては、特に公立病院では毎年5,000億円の税金が投入される中で、民間の医療機関と役割が競合した場合の対応策が検討されていること等を説明した。
 その他、外国人向けの自由診療を行う病院開設の動きがあることについては、保険診療用に確保するための病床数が減るだけでなく、医師や看護職員が引き抜かれる恐れがあるとして、法的整備を行う必要性にも言及した。
 最後に、同副会長は、民間病院のあるべき姿についても触れ、「近隣の病床機能報告の結果等をチェックし、将来のあるべき姿を考えて欲しい」と述べた。
 永廣信治前徳島大学病院長は、大学病院も地域医療構想の策定に関わるべきとした他、今後は県、市町村、医師会とも協力し、医師偏在の解消に取り組んでいく考えを示した。
 武久洋三日本慢性期医療協会長は、後期高齢者の治療に成熟した総合診療医の育成や在宅医療における特定看護師の活用などを提案。「良質な慢性期医療がなければ、日本の医療は成り立たない」と強調した。
 吉田学厚労省医政局長は、地域包括ケアシステムは構想・計画を策定する段階から、具体化・実践する段階を迎えていると説明。今後は、高齢者数がピークとなる2040年に向けて、関係者間の議論を深めていきたいとした。

 

日医・愛知県医師会合同セッション「地域医療におけるかかりつけ医と総合診療専門医」

20190605a9.jpg 日医・愛知県医師会合同セッション「地域医療におけるかかりつけ医と総合診療専門医」(座長:羽鳥裕常任理事、細谷辰之日医総研主任研究員)が行われた。
 竹村洋典東京医科歯科大学大学院教授は、超高齢社会となり、このままでは国民皆保険制度を維持することも難しくなる可能性があるとした上で、その予防策として、「予防・健康づくり」「多職種の連携促進」「総合診療医の育成」が必要になると指摘。総合診療医に必要な機能としては「包括性」「連携性」「患者中心性」「近接性」「継続性」があるとした。
 その上で、今後の課題として、総合診療医の成り手が少ないことを挙げ、その解決のためには、かかりつけ医の総合診療機能を向上させることが求められているとするとともに、「2025年に向けて、日医を始め、関係団体が連携して取り組んでいくことが重要になる」と述べた。
 林義久愛知県医師会理事は、(1)ICTを活用して構築した在宅医療連携システム「たく丸くんネット」、(2)自身がスポーツ医として指導を行っている「ソシオ成岩スポーツクラブ」―について紹介。(1)によって、患者情報を共有することで質の高いサービスが提供できているとした他、(2)では、介護保険サービスの利用者の減少などの成果が見られるとした。
 朝倉健太郎大福診療所長は実際の症例を紹介しながら、総合診療医として地域医療に従事する自身の活動を報告。生物学的なアプローチだけでは限界があるとするとともに、包括的なケア、継続的な医療の提供と関係性の構築が重要になるとの考えを示した。
 荒金英樹山科病院消化器外科部長は、食を支援するための多職種、地域連携システムとして、「京都府口腔サポートセンター」等をつくったことなどを説明。また、昨今では、京都の食産業の協力を得て、高齢者、障害者にやさしい介護食、介護食器の開発に取り組んでいるとし、「このプロジェクトを通じて、摂食障害や介護食の知識の普及を図っていきたい」と述べた。

 

記念講演「やれる理由こそが着想を生む~はやぶさ式思考法~」 川口淳一郎宇宙航空研究開発機構(JAXA)教授

20190605a10.jpg 川口教授は、小惑星イトカワからサンプルを持ち帰ることに成功した小惑星探査機「はやぶさ」の事例から、海外に模範や手本を求めがちで新しいことに挑戦するのを躊躇(ちゅうちょ)してしまうことの多い日本人が、どのように思考していくべきかを語った。
 同教授は、「リスクのない挑戦はない」として、1980年代にわが国の宇宙開発の先が見えない状況下で、他国の後追いではなく、世界で初めて小天体から試料を持ち帰ることを目標とした事業が始まった経緯やエピソードを紹介。NASAという世界的に大きな存在がある中でも「独創にこだわってきた」と述べた。
 また、「ほとんどの人がそう思っていることが実を結ぶとは限らない。自信を持って取り組むことが大事」と指摘するとともに、現在見えるのは過去で、つくらなければいけないのは見えない未来だと強調した。
 次に、同教授は人材育成について、本来は自分を超えていく人を育てることが目的にもかかわらず、日本の企業などでは、創業者等の偉業を守ろうという姿勢が強く、その偉業の内側で生きていこうとする状態になりがちだとした。
 関連して、日本人はルールについても同様の傾向があると指摘。ルールがあることを願う国民性により、その設定したルールの内側で活動しようとし過ぎるために国際的なリーダーシップを取れないとの見方を示し、「規制が無かったら何ができるかという視点で考えてみるべき」と述べた。
 併せて、個人の取り組み方についても言及し、土台づくりにこだわり過ぎるとそれだけで時間が無くなってしまうため、ピラミッドをつくるのではなく、先の尖った鉛筆を目指すべきで、選択が迫られる場面でも「迷うくらいならどっちでもいいことが多い。必ずしも最善策である必要はない」とスピード感を求めた。
 同教授は最後に、「できないかも知れないからやらないのではなく、できるかも知れないからやることが重要」とした上で、「イノベーションは型からはみ出た行動から生まれる。やれる理由を見つけて、挑戦しない限り成果は得られない」と結んだ。

 

特別講演「AMEDのミッション:グローバルデータシェアリング」 末松誠日本医療研究開発機構(AMED)理事長

20190605a11.jpg 末松理事長は、医療情報の取り扱いにおける課題や現在AMEDが進めている事業の概要及び成果について講演した。
 同理事長は、まず、現在の日本の研究環境について概説。健康情報は一人ひとりのデータが時系列に並んでいることが重要であるが、現状では各種データのフォーマットは統一されておらず、紙ベースの資料しか存在しないものも依然としてあることや、省庁間の連携が十分ではないことが利活用の支障になっているとの見方を示した。更に、プライバシーに関する問題は非常に大きな課題となっており、「利活用による利益が個人情報の問題を上回る場合のことを考えていかなければならない」と強調した。
 次に、具体的な事業として、(1)複数の学会連携による課題解決「協創・競争」のプラットフォームによる研究開発、(2)未診断疾患イニシアチブ(IRUD)診断連携―を例に挙げ、説明を行った。
 (1)では、AIを用いた胃の生検のダブルチェックシステムを紹介。日本は病理医の数が少なく、ほとんどダブルチェックができていないため、複数の学会等の協力の下、診療画像等データベースプラットフォームを構築し、どこの医療機関にいても診断支援を受けられることを目標に事業を進めているとした。
 (2)については、臨床的な所見を有しながら通常の医療の中で、診断に至ることが困難な患者の情報共有と診断確定、そして治療を見据えた病態解明やシーズ創出を目的としており、最新のゲノム解析や他国のデータベース等とのデータシェアリング等を駆使しているとした。
 同理事長は、他国とのデータシェアリングについて、国を越えての情報共有に関する法律等の事情はEUとアメリカでも大きく異なるなど、国によってさまざまであり、二国間協定が必要な場合もあるなど、対応の複雑さを解説する一方、「データシェアをした瞬間にマッチする病気もある」と述べ、その意義を強調。
 更に、IRUDによって半年以内に診断のついた患者が1,000人以上いることや、教科書に載っていない18の病気を見つけたことを紹介した上で、善意で協力してもらっている参加医療機関に謝意を示した。

 

セッション「開業医、勤務医、産業医の社会的使命と過重労働・ワークライフバランス」

20190605a12.jpg 「開業医、勤務医、産業医の社会的使命と過重労働・ワークライフバランス」をテーマとしたセッションには、羽生田俊参議院議員が出席した。
 笽島茂三重大学大学院教授は、自身の研究結果などを紹介しながら、心筋梗塞、脳血管疾患の発症リスクは労働時間の増加によって高まることが証明されていることを説明。更なる研究分析が求められるとした。
 羽生田議員は、自身が座長を務めている自民党の「医師の働き方改革プロジェクトチーム」がまとめた医師の働き方に関する考え方について、取りまとめに当たっては「医師の健康の確保」「地域医療の適切な確保」の二つの視点を柱として議論を行ってきたと説明。その内容については、(1)時間外勤務となる理由について詳細に分析し、対応すべき、(2)医師の働き方改革の実現のためには、医師の偏在の解消、国民の意識改革、ICTの活用などの他、財源の確保も必要―などにも触れられているとした。
 その上で、各医師会に対しては、「『初期救急、休日夜間診療体制の再構築』『かかりつけ医と病診連携の普及促進』『予防・健康増進活動の推進』等が求められる」と述べた。
 湯地晃一郎東大医科学研究所准教授は、全国の医師10万人を対象として行った「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」の結果について報告。医師のワークライフバランスを実現するためには過重労働対策が急務とし、その解決策として「チーム主治医制・交代制、多職種との役割分担」「労働時間、勤務体制の多様化の推進」等が求められるとした。
 労働衛生コンサルタントの櫻澤博文氏は、労働負担軽減と事業所の魅力向上に向けた取り組みを行ってきた経験を踏まえ、医療現場で働き方改革を実現するための方策として、「ストレスチェックを行い、その結果を基に集団分析し、職場環境改善計画を策定する」「キャリアコンサルタントを活用する」ことを提案した。
 森田朗津田塾大学教授は、勤務時間という視点からのみで働き方改革を考えることには限界があると指摘。「生産性に着目した業務分析を行い、タスクシフトも含めて、効率化を考えていくべきである」とした上で、その具体策として、医師にしかできないことに多くの時間と資源を配分する管理体制の構築等を挙げた。

 

記念講演「過去と現在を直視し、今後の震災に備える」 福和伸夫名古屋大学減災連携研究センター長

20190605a13.jpg 福和センター長は、歴史をひも解きながら南海トラフ地震で予測される被害と過去の災害からの教訓を踏まえ、日本で安全に過ごすための対応法について言及した。
 同センター長は、まず、「亥年は災害の年」と言われていることを紹介し、亥年に起きた能登半島地震、新潟県中越沖地震、阪神・淡路大震災等々、映像を交えて過去の自然災害を振り返った。
 続いて、「令和」の時代を迎えるに当たり、「令和」にゆかりのある大宰府天満宮の祭神である菅原道真が官吏登用の際に受けた方略試の中で、"地震について論ぜよ"との問いに、張衡が発明した地動儀の話をして合格したという逸話に触れ、地震との深い因縁について語るとともに、日本の元号に使われている漢字のうち、「和」が付く元号では南海トラフ地震が3回発生していることを紹介。過去には災害改元があり、天変地異や災害を理由に改元したこともあるとして、「令和」と災害の関わりを概説し、「今後の30年間に南海トラフ大地震は必ず起きる」との見方を示した。
 また、昨年の大阪北部地震において、エレベーターへの閉じ込め事例や地震保険を圧迫する保険金が拠出されたこと、西日本豪雨による全国への物流の影響、北海道胆振東部地震でのブラックアウトなど、災害被害にも言及し、現状への警鐘を鳴らした。
 その他、日本の中枢である東京都の被害を想定し、その経済損失により日本が世界の最貧国になるとの土木学会の推定があることを紹介。「人を守るのと同様に産業を守ることが重要であり、社会インフラの安全化が必要である」と指摘。日本の製造業において大きな役割を担う東海地域が機能不全に陥った場合、その影響がどう波及していくかを国にも提言しているとした。
 その上で、同センター長は、確実な地震予知は不可能なため、国は自治体や企業が取るべき対応策を示したガイドラインを公表し、来年度内を目途に地域防災計画などに反映させる方針が示されていることを報告。「これを機に自助努力を進め、個々に自身で命を守る社会を構築できれば、南海トラフ大地震を乗り越えていける」と期待を寄せた。

 

記念講演2「がんを免疫力で治す」 本庶佑京都大学高等研究院副院長/特別教授

20190605a14.jpg 本庶特別教授は、幼少期のエピソードからさまざまな恩師との出会いやPD-1分子作用を用いたがんの免疫療法等について、昨年スウェーデンのストックホルムで行ったノーベル賞受賞者記念講演の内容等に触れつつ、発表した。
 まず、同教授は、(1)野口英世の伝記に感銘を受け、医学の道に進む決意をした、(2)京大で出会った早石修先生の「研究は国際的でなければならない」との教えから、多くの外国人研究者と交流を図りつつ、NADの酵素阻害要因について研究し、ジフテリア毒素が酵素であることを発見したが、大学紛争により研究室が閉鎖されてしまった、(3)米国では、カーネギー研究所のドナルド・ブラウン先生との出会いにより、米国立衛生研究所のフィリップ・レーダー先生の研究室で抗体遺伝子数を測定する研究を行い、帰国。数年後に、利根川進博士が遺伝子の組み合わせにより多種類の遺伝子ができた結果、多様な抗体ができることを発表したことにより、自分達の研究での予測が正しかったことが証明された―ことなどを説明した。
 また、PD-1による免疫のバランス変化を感染症やがん治療に応用するに至ったこれまでの研究成果を概説。「治験によりPD-1抗体がメラノーマの治療薬として承認されて以降、12種類以上のがんに対して世界中で承認が得られている」とした。
 更に、PD-1分子作用を用いたがんの免疫療法について、従来のがん治療と比べて、「正常細胞に影響を与えず、副作用が少ない」「1種類の薬で広範ながんに効果がある」「一旦効き始めれば、治療を止めても効果が長く継続する」「変異を繰り返す細胞を全て攻撃する」と利点を挙げる一方で、個体差により効く人と効かない人がいるため、更に改善していく必要があると指摘。現在、PD-1阻害との組み合わせによるがん治療の試みが進んでいることを報告するとともに、「PD-1抗体治療は始まったばかりで、まだ一部のがんにしか適応ができていないが、今後は多くのがんにその対象が拡大し、近いうちにはがんが慢性疾患となり、共存できる日がくるのではないか。20世紀は感染症を克服し、21世紀には免疫力でがんを撲滅する可能性が出てきた」と今後の成果に期待を寄せた。
 最後に、同教授は、世界中の多くの共同研究者の他、文部科学省を始め、日本政府、民間企業、財団等からの長きにわたる支援に対し、感謝の意を示し、講演を締めくくった。

 

閉会講演「iPS細胞研究の現状と医療応用に向けた取り組み」 山中伸弥京大iPS細胞研究所長/教授

20190605a15.jpg 山中教授はiPS細胞について、「ほぼ無限に増殖が可能であり、体の全ての組織や臓器の細胞に分化できる能力を備えていることから、細胞移植治療などの再生医療、創薬研究など、幅広い医療分野への貢献が期待できる」とした上で、加齢黄斑変性などに対する再生医療、ALSやアルツハイマー型認知症に関する創薬研究などの現状について説明した。
 再生医療については、患者自身からiPS細胞を作製し、移植するには時間も費用もかかるという課題があったことから、日本赤十字社の協力の下、多くの患者に対応可能で、拒絶反応も起こしにくいHLAホモドナーからiPS細胞を作製する「再生医療用iPS細胞ストックプロジェクト」に取り組んでいることを報告。
 2015年には臨床用のiPS細胞を初出荷し、2017年には加齢黄斑変性の患者に対する他家移植が開始された他、2018年にはiPS細胞由来のドーパミン産生神経細胞を用いて、パーキンソン病に関する医師主導治験が開始されているとした。
 また、iPS細胞ストックだけで日本人全体をカバーするためには、150種類のストックをつくらなければならないため、ゲノム編集を利用したストックの作製にも取り組んでおり、来年には出荷できる見通しであることを紹介。「2025年までには、患者自身の細胞からも100万円程度の費用で、1カ月以内にiPS細胞を作製できるようにしていきたい」と述べた他、iPS細胞を用いた再生医療を成功させるためには、医療界全体の協力が必要になるとして、更なる支援と協力を求めた。
 その上で、同教授は、「iPS細胞を用いた再生医療・創薬はこれからが正念場であると考えている。更に研究を続け、令和の時代には、ぜひその名前の由来にもなった万葉集の言葉のように、iPS細胞を使った技術も花を咲かせ、どの医療機関でも患者さんに使えるものにしていきたい」との決意を示した。

 

日本医学会総会次回開催予告

次回第31回日本医学会総会は、学術集会が2023年4月21日~23日に東京国際フォーラム他で、学術展示が4月20日~23日に東京ビッグサイト他で、それぞれ開催される予定です。

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