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平成30年(2018年)5月20日(日) / 日医ニュース

不道徳な見えざる手

 「経済はごまかしに満ちている」で始まる邦訳『不道徳な見えざる手』は、ノーベル経済学賞を受賞したジョージ・アカロフとロバート・シラーの両名による著書だ。
 彼らは言う。「自由市場は人間の弱みにつけ込む」「経済とは釣り師とカモの永遠の闘いである」
 このカモ釣りがよく見られる分野の一つとして挙げられたのが人々の健康をめぐる分野だ。本書には、既に衣食の足りている人達にとって最大のニーズは健康であって、薬の売り付け屋達はカモを釣ると書かれている。既に我々の周りには健康食品も含めていろいろな釣りの仕掛けが満ちている。藁(わら)をもつかむ末期がん患者に得体(えたい)の知れない治療を勧めたり、不要な検査を勧めるのもカモ釣りだろう。
 健康・医療に関しては、メディアがカモ釣りを助けている。3月5日、某全国ネットのテレビ局がオンライン診療に関して、まだ決まってもいないガイドラインの内容を既に決まったかのように報道した。これを見た人は、オンライン診療が一般の診療の場で当たり前になると思ったのではないか。今回の診療報酬改定で新設されたオンライン診療だが、このような報道が出る背景には、オンライン診療で一儲(ひともう)けしようとする人達の暗躍があったのではないかと推測される。
 アダム・スミスが言った「神の見えざる手」だが、現代社会では、アカロフらが言うとおり、その手は不道徳に満ちているようだ。

(撥)

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