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平成30年(2018年)3月20日(火) / 日医ニュース

25名の受賞者を表彰

25名の受賞者を表彰

25名の受賞者を表彰

 第1回「生命(いのち)を見つめるフォト&エッセー」(日医・読売新聞社主催、厚生労働省後援、東京海上日動火災保険株式会社、東京海上日動あんしん生命保険株式会社協賛)の表彰式が2月24日、都内で開催された。
 本事業は長年にわたり実施してきた「『生命(いのち)を見つめる』フォトコンテスト」と「『心に残る医療体験記』コンクール」を統合、リニューアルして、今年度より開始したものである。
 冒頭、主催者を代表してあいさつした横倉義武会長は、多数の応募があったことに謝意を示した上で、「それぞれの入賞作品を拝見し、改めて生命や絆の大切さに気づかされ、深く感動した」と述べ、受賞者への祝意を表した。
 また、今後、高齢になっても元気で健やかに暮らしていくためには、若い時から健康を意識し、日頃から何でも相談できる「かかりつけ医」をもつことが重要であるとした上で、国民の信頼を得るため、医師の側にも「かかりつけ医」としての意識を高めてもらうよう、引き続き働き掛けていくと述べた。
 加藤勝信厚労大臣(代読)他の祝辞に続いて、道永麻里常任理事が、フォト部門2206点、エッセー部門1115編という多数の応募があったことを始め、審査の詳細等も含めた経過報告を行った。
 引き続き表彰に入り、まず、フォト部門の厚生労働大臣賞、日本医師会賞、読売新聞社賞、審査員特別賞各1名、入選5名の受賞者に、それぞれ賞状・副賞が授与された後、エッセー部門「一般の部」の厚生労働大臣賞、日本医師会賞、読売新聞社賞、審査員特別賞各1名、入選6名の受賞者、続いて、「中高生の部」並びに「小学生の部」の最優秀賞、優秀賞の受賞者に、それぞれ賞状・副賞が授与された。
 その後の審査講評では、フォト部門審査員を代表して熊切圭介日本写真家協会長が、「カメラの機能が多彩になり、より豊かな表現ができるようになったことで写真の面白さを多くの人が感じられるようになっている」とした上で、今回の入賞作品については、「面白いもの、魅力的なもの、表現力豊かなものと実にさまざまで、写真の世界が広がっていると感じた。本日はこれらの写真をどのような方が撮ったのか、会えるのを楽しみにしてきた」と述べ、受賞者を祝福した。
 また、エッセー部門審査員を代表して養老孟司東京大学名誉教授は、「テーマがいかに読む側に伝わってくるかを重視した。どなたが受賞しても差し支えなく、正直、審査をしたくはなかった」と選考を振り返るとともに、「メールやSNS等相手の見えないデータのみが行き交う時代。手書きの原稿は審査員としては読みにくいが、相手を感じることができるのがいい。次回も楽しみにしている」と述べた。
 なお、今回の入賞作品は日医ホームページに掲載している他、冊子としてまとめ、『日医雑誌』5月号に同梱して全会員に送付する予定。

エッセー部門 日本医師会賞

160620f3.jpg「A先生の『ここだけの話』」
渡辺 惠子(わたなべ けいこ)

徳島県徳島市
58歳・主婦


 今から17年前。父が66歳の時に脳腫瘍が見つかった。父はその6年前に脳出血で倒れ、何度も危機を乗り越えながら、ようやく平穏な日常が戻ってきた矢先のことだった。
 総合病院で緊急手術をしたのだが、患部を取り除いても、月単位でまた別の場所に腫瘍ができ、父は1年の間に4回もメスを入れた。
 その度に父の身体機能や意識レベルが衰え、最後の手術の後は、排泄(はいせつ)の感覚も麻痺(まひ)してしまい、母や私のことも分からないようだった。
 父は日頃から、自分が認知症になったり、意識障害に陥ったら、自分の哀れな姿を他人には絶対に見せないでほしいと言っていた。私達は父の意思を尊重してあげようと、友人、知人には一切知らせていなかった。
 母は病室に折りたたみの簡易ベッドを持ち込み、毎日泊まり込んでいた。そして何かに取り憑(つ)かれたように一日中父のそばに張り付き、時々ドアを開けては人の気配をうかがっている母の行為は、周りから見ても異常だった。私は正直言って、父よりも母の方が心配だった。
 主治医のA先生は、頻繁に病室を訪ねてくれた。穏やかで、ちょっと間延びした口調で、「どうですか~? 変わりないですか~?」って、声をかけながら入ってくる。今から思えばA先生のその言葉は、父だけではなく、私たちにも向けられていたのかも知れない。母は回診の度に、「絶対に治りますよね?」って、すがるような目でA先生を問い詰めた。A先生から父の病状や余命を全て知らされていた私は、いたたまれない気持ちになった。A先生は母から目をそらさず、優しいまなざしで大きくうなずいてくれた。あの時の母に、父の身体に忍び寄る現実を冷静に受け止められるとは、到底思えなかった。私はA先生の思いやりに、いつも救われていた。
 そしてあの出来事は、父が他界する1カ月ほど前だったろうか。私たちはほんの15分、売店に行くために病室を空けた。買い物袋をぶら下げて部屋のドアを開けた時、私たちはぼうぜんと立ちすくんだ。中では父の無二の親友だった寛吉さんが、父の両頬をなでながら、何か語り掛けていた。
 すると次の瞬間、父が突然「グワー」っと、唸(うな)り声を上げた。普段はうつろな目で、天井を見上げているだけだった父が、ベッドから起き上がろうとする仕草(しぐさ)を見せた。そして顔をくしゃくしゃにして、大粒の涙が流れ出した。そして寛吉さんが父の両手を握り締め、「友ちゃん、会えてよかった」と言った時、父は確かに首を縦に振った。その時の父は、喜びの感情を全身で表現しているように思えた。
 午後の回診にA先生が現れた時、私はさっきの光景の一部始終を打ち明けた。
 「夫との約束を、守ってあげられなかった」母は顔を覆い、その場に泣き崩れてしまった。3人の間につかの間の沈黙が流れた。A先生は、「後から、改めて伺います」と言い残して、部屋を出て行った。
 それから5時間ほど経った、夜の8時過ぎ、ドアをノックする音がした。母と私は顔を見合わせ、恐る恐るドアを開けると、私服姿のA先生が立っていた。
 「今、勤務が終わって、帰りに寄りました」A先生は椅子に座って、静かに語り始めた。
 「僕の父は、住職でしてね。僕が医学部を卒業した時に、父に言われた言葉があるんです。『病巣を発見するだけの人間ロボットになるなよ。常に患者と家族の心に寄り添え』って。西洋医学を志す僕としては、父のうんちくを聞くのが鬱陶(うっとう)しい時期もありました。でも、今では僕の、貴重な羅針盤になっています」
 「で、先ほどのお父様の件なのですが......」
 A先生は、急に姿勢を正した。
 「これは、『ここだけの話』ですが......、お父様が元気な時に言われた言葉は、真実です。そして今日のお父様の姿も真実です。人間の気持ちは、日々移り変わっていきます。お父様は、そのお友だちに会いたかったのです。お父様は、きっとうれしかったと思いますよ」
 「でも、夫からあれだけ言われてたのに......」また涙を浮かべた母に、A先生はほほ笑んだ。「遺言書と同じですよ。遺言書は日付の一番新しいものが有効です。だから今日のお父様のメッセージの方が有効です」
 その言葉に、母の顔から笑みがこぼれた。
 「今の夫に家族ができることって何ですか」母の質問に、A先生は神妙な顔でこう答えた。
 「お父様に、ご家族の幸せそうな笑顔を見せてあげてください。意識が混濁している状態でも、相手の表情だけはわかるんですよ」
 A先生は帰り際に、私たちに念を押した。
 「今の話、医学では証明されてないですから、絶対に『ここだけの話』ですからね」って。
 間もなく父は、家族の笑顔をリュックにいっぱい詰めて、天国に旅立っていった。
 あれから長い歳月が経ったが、今でも白衣を脱いで駆け付けてくれたA先生を思い出す。
 今後の自分の人生においても、ぜひ「ここだけの話」を参考にさせてもらいたいと思う。

フォト部門 日本医師会賞

180320i3.jpg「負けない」
大野  武(おおの たけし)

徳島県板野郡
73歳・無職


180320i4.jpg

第1回 生命(いのち)を見つめるフォト&エッセー 入賞者名簿

フォト部門

厚生労働大臣賞
「愉快なひと時」逵中美知子(三重県)
日本医師会賞
「負けない」大野  武(徳島県)
読売新聞社賞
「おしゃぶり」富士本 晃(北海道)
審査員特別賞
「愛おしい...」柴  侑貴(沖縄県)
入選
「母さんお肩をたたきましょう~コンコンコン♪」伊藤  孝(北海道)
「60回目の結婚記念日」金指 栄一(神奈川県)
「じいちゃんの長芋」丹羽 賢一(宮城県)
「順番ですよ」戸崎 安司(千葉県)
「輝く」西本 睦子(滋賀県)

エッセー部門

【一般の部】
厚生労働大臣賞

「寄り添う眼差しに」重信 雅美(東京都)
日本医師会賞
「A先生の『ここだけの話』」渡辺 惠子(徳島県)
読売新聞社賞
「大きなお地蔵さんのような病院」小川かをり(東京都)
審査員特別賞
「がらんどうの生」馬場 広大(鹿児島県)
入選
「みいちゃんへ」坂口有美子(東京都)
「あなたには、時間がない」平井 真帆(埼玉県)
「ビールで乾杯」御代田久実子(東京都)
「心の交流」森田 欣也(愛媛県)
「共感」八木 房子(愛媛県)

【中高生の部】
最優秀賞
「笑顔の力」河野 未実(東京都)
優秀賞
「患者の家族として」穴田 未優(千葉県)
「幸せに『生きる』ということ」古泉 修行(新潟県)
「ベッドで散歩」下萩 南耀(東京都)

【小学生の部】
最優秀賞
「おじいさんのお手つだい」横山 紗来(兵庫県)
優秀賞
「私はNICU卒業生」石野 美宙(東京都)
「わたしがうさぎに伝えたい気持ち」新池谷 悠(群馬県)

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