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平成27年(2015年)12月20日(日) / 「日医君」だより / プレスリリース / 日医ニュース

医療経済実態調査報告の分析結果を踏まえ改めて適切な医療費の確保を要求

 横倉義武会長は11月25日、記者会見を行い、「第20回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」(11月4日公表)について会内で分析した結果を基に、中医協総会(11月20日開催)において診療側の見解を示したことを報告するとともに、本調査分析結果を踏まえ、改めて適切な医療費の確保の必要性を訴えた。

 横倉会長は、まず、中医協においては、(1)前回改定が実質1・26%のマイナス改定であったこと、(2)消費税率引き上げに伴う補填(ほてん)は行われたが、医療機関は総じて経営悪化となっていること─などを診療側から指摘したことを報告。
 その上で、本年6月に閣議決定された、いわゆる「骨太の方針」では、「各年度の歳出について、一律ではなく柔軟に対応する」と記載されているにもかかわらず、11月24日の財政制度等審議会の建議では「経済・財政再生計画の初年度にふさわしいものとなるよう、当審議会としては、確実に高齢化による増加分の範囲内(5000億円弱)にしていく」と機械的な削減を示唆する表現が見られることに対して、「このままでは、平成28年度に診療報酬改定がある医療のみが大きく削減されることとなり、地域医療の崩壊につながる」との危惧を改めて示した。
 また、医療機関には全国で約300万人以上が従事しており、特に、地方においては医療・介護施設での雇用が最大雇用であるとする市町村が相当数あることから、医療機関が経営的にも安定し、給与等の形で医療従事者に還元されれば、地方の経済も活性化し、社会保障の充実によるローカル・アベノミクスの推進につなげることが期待できると指摘。
 更に、安倍政権が労働者賃金の2・5%の引き上げを要求していることについても触れ、医療従事者約300万人の給与を2・5%引き上げるとすると約4700億円(その内の国庫負担分は1200億円弱)の財源が必要となることを説明。「今回の診療報酬改定が削減ありきの議論で進められれば、医療に携わる人達のみ賃金の上昇は行わず、低賃金でやりなさいということになる。医療現場が荒廃することで、一番影響を受けるのは国民である」と強調。「医療経済実態調査の結果でも明らかなように、病院・診療所は厳しい経営状況におかれており、国民が必要とする医療が過不足なく提供できるよう、政府に対し、引き続き必要な財源の確保(図)を強く求めていきたい」とした。

医療経済実態調査報告の分析結果を踏まえ改めて適切な医療費の確保を要求

次期改定での適切な対応を ─中川副会長

医療経済実態調査報告の分析結果を踏まえ改めて適切な医療費の確保を要求 引き続き、会見に同席した中川俊男副会長が、「第20回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」について、日医で分析した結果(詳細は日医ホームページ掲載の定例記者会見資料を参照)の内容について概説。医療機関の窮状を訴えるとともに、次期改定における適切な対応を求めた。
 同副会長は、まず、本調査について、前回2013年調査から直近2事業年度調査に一本化され、診療報酬改定前後の定点調査となっているが、全ての医療機関の決算期は一致しておらず、一般診療所における3月決算は2割強で、4月決算の医療機関の前年度分は2013年5月~2014年4月となり、診療報酬改定の影響がほとんどないことから、「本調査は診療報酬改定後満年度の影響が出ているわけではないことに注意が必要である」とした上で、その結果を基に分析した内容を次のように説明した。
 ・医業収益の伸び率については、医科では一般病院プラス1・5%、精神科病院プラス1・5%、一般診療所(以下、診療所)マイナス0・2%であり、損益差額率は、一般病院及び診療所で法人、個人共に低下し、精神科病院で低位横ばいであった。
 ・一般病院は、国公立も民間病院も損益差額率が低下し、特に、民間病院では、医師給与が低下するなど給与水準は抑制されているが、給与費は上昇。給与単価は抑えているものの、コ・メディカル等の要員数の増加に見合う収入がなかったものと見られる他、7対1の赤字が最も大きくなった。また、安全性に係る指標が低下した他、借入金の返済が厳しくなっている。
 ・精神科病院は、医業収益、損益差額とも金額ベースではほぼ横ばいであり、抑制されている。医薬品等の削減により水面上ギリギリの黒字を維持している。
 ・療養病床は、療養病棟入院基本料1は損益差額率が低下。療養病棟入院基本料2は連続赤字で、かつ赤字が拡大している。
 ・診療所は全体で減収減益。医療法人では院長給与を引き下げているが減収であった。損益差額率低下の要因の一つは給与費率の上昇にあり、医療法人では勤務医の給与水準が上昇しており、医師確保が困難になっている可能性もある。また、診療所では看護職員、事務職員の給与費単価が上昇している。
 ・国公立病院と民間病院に関しては、医療法人では損益差額率は2・0%であるが、税引後は1・2%と0・8ポイント低下し、国立病院ではマイナス0・3%であるが税負担がないため、税引後はマイナス0・1%と0・3ポイント改善している。公的病院はマイナス2・4%であるが、医療法人に比べ補助金が多いと推察され、税負担も少ないことから、税引後はマイナス1・7%と0・7ポイント改善している。
 その他、同副会長は、11月20日開催の中医協で支払側の健康保険組合連合会が示した「一般診療所と歯科診療所及び保険薬局の損益差額率は、前回、前々回調査と比較して高い水準となり安定的に黒字が続いている」とする見解についても反論。
 その中で同副会長は、「前回、前々回調査は今回の調査と客体が全く異なるため、比較すること自体が間違いだ」とした上で、「個人の医療機関が赤字ということは、院長給料はゼロということになり、調査手法と損益に対する理解が不十分である」と指摘。「最低限黒字でなければ医療機関の医療提供体制の再構築は不可能である」として、健保連に対し遺憾の意を表した。

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