お医者さんに聞くがん検診の大切さ 道永麻里(みちながまち)先生「がん検診の大切さ」

がんは身近な病気。正しく理解し、早期発見や予防の大切さについて知って欲しい

日本人が生涯のうちにがんに罹る可能性は、2人に1人といわれています。がんは、それほど身近な病気であるにもかかわらず自分のこととして捉えにくく、また身内の方が罹患すると隠したくなる、あるいは休職すると仕事に復帰しにくい、など特別視されるケースがあると聞いたことがあります。それだけがんに関する一般国民の知識は、まだ十分でないと感じています。有効な治療法や治療薬の開発などにより、がん医療は日々進歩しています。早期に発見して適切に治療すれば完治するケースも多く、禁煙など生活習慣の見直しにより予防も可能になってきました。病気を正しく理解し、早期発見や予防の大切さについて医療者だけでなく一般の方にも知って欲しいと思います。

学校で取り組みはじめたがん教育。命の尊さを学び、知識として身に付けることは重要です

がんという病気を正しく理解するためには、学校教育の一環としてがん教育を取り入れることも重要です。授業では養護教諭に加えて、医師など医療関係者や精力的に活動されているがん体験者などの話のなかから命の尊さを学び、子どもの頃からがんの予防や早期発見の重要性を知識として身に付けることはとても有意義です。文部科学省でも小中高校でのがん教育を強化するために、2014年度からモデル校での先進的授業や教員研修を開始し、がんに関する知識の普及啓発を進めています。

有効性が確立された5大がん検診は、地域のがん死亡率の低下を目的としています

5大がん検診内容

無症状のうちに、がんを初期の段階で発見するために有用な方法が検診です。無症状で発見されるがんは進行していないケースが多いため、早期に治療することにより、がんの死亡率を軽減することができます。

 各市区町村が実施するがん検診は、健康増進法により厚生労働省の指針に基づいて行われています。対象は、胃がん、子宮頸がん、肺がん、乳がん、大腸がんの5大がんです。これらは「対策型検診」といわれ、地域におけるがん死亡率の低下を目的に予防対策として実施されています。100%の精度を持つがん検診はありませんが、いずれも有効性の確立した検診方法とされています。

 死亡率の面でもっとも成績が良いのは胃がん検診です。大腸がん検診の成績はがん発現部位により異なるようですが、まず最初は便検査であり、痛みを伴う検査ではないことから受けやすいのではないでしょうか。子宮頸がん検診、乳がん検診の婦人科系のがん検診は、受診するのに身構えてしまうところがあるのかもしれません。しかし、健康に不安がなく「自分だけは大丈夫」と思っていても、誰でもがんに罹るリスクは持っています。子宮頸がん検診、乳がん検診の受診間隔は2年に1回です。面倒がらずに受けていただきたいと思います。

通常の検診に加えて、自治体が独自に取り組んでいるがん検診もあります

通常の検診に加えて、自治体が独自に取り組んでいるがん検診もあります。日本医師会の公衆衛生委員会が都道府県医師会と郡市区医師会を対象に実施したアンケート調査によると、前立腺がん検診(PSA検査)、胃がん検診(胃内視鏡検査)、胃がんリスク検診(ピロリ菌検査、ペプシノゲン検査)、乳がん検診(エコー検査)、子宮頸がん検診(ヒトパピローマウイルス検査)など、様々な検診が行われています。前立腺がんのPSA検査は多くの自治体で実施されています。これらの検診内容は地域により異なるため、希望される方はお住まいの自治体に問い合わせてみてください。

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少しでも気になることがあれば、かかりつけ医に気軽に相談して欲しい

一般的な健診でも、異常が見つかることが心配で、受診を躊躇される方がいます。それが、がんならなおさらです。よくあるのが、「気になるけれども知るのが怖い、あるいは忙しいので症状が出るまで医療機関に行かなかった」というケースです。検診のハードルが高い場合はかかりつけ医に相談して、専門医を紹介してもらうのも一つの方法かもしれません。

 日本医師会では平成21年度に「かかりつけ医のためのハンドブック?受診率向上を目指して?」という冊子を制作して全ての会員に配布し、正しい知識と受診者に対するきめ細やかな配慮を備えた検診を推進しています。私自身、日常診療のなかで患者さんから「胸にしこりがある」と相談されて触診し、乳がんを発見したことがあります。ほんの小さな初期のがんでした。また、高齢女性の心電図を測定する際にも偶然乳がんに気づき、そのことを患者さんに伝えると「わかっていたけれど、なかなか病院に行けなかった」と打ち明けられたこともあります。この女性は無事手術を終え、5年が経過しました。ためらっている患者さんの背中を押して、受診を促すのもかかりつけ医の役割だと感じます。少しでも気になることがあれば、かかりつけ医に気軽に相談していただきたいと思います。

がん検診受診率向上のために、多角的にアプローチをしています

国民が受診しやすいがん検診にするためには、たとえば仕事をしている方のために居住地以外の市区町村でも受診できるような環境を整備する、あるいは若い女性も抵抗なく受診できるような子宮頸がん検診の有効な検査法を確立するといったことも必要だと思います。また家庭での教育も大切で、定期的に両親が揃って検診に出かける姿を見せることで、理屈ではなく自然な習慣として子どもの心に擦り込まれていくのではないでしょうか。検診日を決めておくのも一つの方法です。厚生労働省でも、より有効性の高い検診の在り方を検討しています。このように多角的にがん検診へアプローチすることで、受診率が高まることを期待しています。

お医者さん

道永麻里(みちながまり)さん

神奈川県出身。上智大(英)・千葉大(医)卒。
すみだ医副会長・会長を経て、平成14年より10年間、東京都医師会理事を務めた。平成24年4月1日より令和2年6月まで日本医師会常任理事を務めた。