表紙ページ >> 急な病気?!と思ったら見て頂きたい緊急時対応方法
かぜのような症状があるとき >> 吐き下し

吐き下し 

吐き下しとは

 昔、12月になると小児科医の間では「そろそろ吐き下しの季節ですね」が、あいさつとして使われていました。
 吐き下しとは、嘔吐をして下痢をする病気のことです。最近はインフルエンザが有名ですが、小児にとって忘れてはいけない病気として「吐き下し」があります。現在は吐き下しとは言わず「感染性胃腸炎」という幅広い病名が使われています。

感染性胃腸炎とは?

 嘔吐をして下痢をする状態を「胃腸炎」と言い、その原因が感染症の場合「感染性胃腸炎」と言います。感染性は主に、細菌性とウイルス性に分かれます。細菌性は赤痢(せきり)、コレラ、病原性大腸菌によるものが有名です。食中毒も感染性胃腸炎で、その原因が何か食べたことによるときには食中毒と呼びます。
 冬季は主にウイルス性の感染性胃腸炎が子どもたちの間で問題になります。現在ウイルス性胃腸炎でよく知られている原因ウイルスは、ロタウイルス、アデノウイルス、ノロウイルスです。特定のウイルスがまだ原因とわかっていなかった時代は子どもの胃腸炎を「乳児嘔吐下痢症」「冬期下痢症」などと呼んでいました。

ウイルス性胃腸炎

 発展途上国では、嘔吐下痢症で亡くなる子どもがまだ多くいるようです。日本でも数十年前まで、この嘔吐下痢症で多くの子どもたちが亡くなった歴史があります。
 コレラや赤痢は昔から恐れられていましたが、子どもの嘔吐下痢症はコレラに似ているため「仮性(かせい)コレラ」と呼ばれ、恐れられていました。
 赤痢は便が血液で赤くなるため、赤い下痢から赤痢と呼ばれるようになり、子どもの嘔吐下痢症では白い下痢になることから「白痢」と呼んでいたようです。戦後、栄養状態の悪い子どもたちがかかると栄養状態がさらに悪くなるため、「中毒性異栄養症」とも呼びました。
 子どもたちの命を脅かす嘔吐下痢症の直接原因は脱水だったため、脱水の治療が先輩小児科医の重要な研究課題でした。脱水症になった子どもの体には、水分だけではなく、ナトリウム、カリウム、クロールなどの電解質(でんかいしつ)も必要です。それらもどれだけ補えばいいのか試行錯誤で行われました。今では小児科医であれば、子どもの静脈に点滴することはあたりまえですが、昔は脱水症になった子どもに点滴をすることはかなり難しい技術だったようです。血管内に入れる管、技術のなかった時代でよく行われた方法として大量皮下注というやりかたがありました。はれ上がった大腿を、温かい布でもみながら、入れた電解質を速く体内に吸収されるようにしていました。非常に太い、いくつも側管のある針を大腿に刺し、力一杯入れるため、子どもは当然、泣き叫びます。力が必要なため若い小児科医の仕事だったようです。 輸液療法の進歩、点滴機材技術の進歩と並行して、この嘔吐下痢症の原因となる病原体が発見されていきます。
 1973年にはロタウイルスが発見されました。電子顕微鏡で見ると70ナノミクロンの車輪状の形をしたウイルス粒子があったのです。ロタは車輪という意味です。これはローテーションやロータリーと同じ語源で、丸いという意味を含みます。このロタウイルスより小さい粒子のウイルスも下痢を起こすことがわかり、小型球形ウイルスと呼ばれていました。最近この小型球形ウイルスの多くを、ノロウイルスと呼ぶようになり、老人施設での食中毒の原因として一般の人にも知られるようになりました。現在は子どものウイルス性胃腸炎の代表としてロタウイルス、アデノウイルス、ノロウイルスが確認されています。

ウイルス性胃腸炎の経過と治療

 ほとんどの場合は嘔吐から始まります。嘔吐を繰り返した後、下痢が始まります。嘔吐は通常1日で治まり、下痢が続きます。嘔吐と下痢の程度が脱水症の重症度になります。脱水になると、子どもは元気がなくなり、顔色も青白く、まばたきのスピードが遅くなります。おしっこも出にくくなり、舌は苔が生えたように乾いた感じになります。嘔吐が頻繁な場合は、座薬で吐き気を抑え、下痢が始まった時は下痢止めや整腸剤を使います。しかし、治療の中心は脱水症の予防やその治療です。嘔吐のあるときは、イオン飲料水を少しずつ与えながら嘔吐があるか確認していきます。嘔吐が治まれば、下痢の性状に合わせて軟らかいものを食べさせます。すなわち水様便のときは水分のみを、どろっとした下痢便のときはどろっとした物を、便に形が出てきたときは形のある消化のよいものを与えます。脱水がひどいときは点滴をしますが、通常は入院して行います。

家庭でのケアは?

 家庭ではイオン飲料水でようすを見ます。これを経口補液といい、治療の中心です。嘔吐が治まり、ある程度ものを食べられるようになったら、胃腸に刺激がないものを与えます。オレンジジュースのようなかんきつ類は、腸の動きを活発にするので与えないようにします。リンゴやモモジュースの方がいいでしょう。便秘のとき使う食材は避けた方がいいと思います。 冬の胃腸炎は感染性が強いので、インフルエンザと同じように手洗いはきちんとし、元気があればふろに入り、清潔にした方がいいでしょう。 子どもの冬の胃腸炎は、昔に比べかなり軽症化しましたが、ときに不注意から脱水がひどくなり、入院治療が必要な場合もあります。子どもをきちんと観察することや、小児科医のアドバイスは大事です。
トップページへ戻るケガへの対応病気への対応

日本医師会ホームページ/Copyright c Japan Medical Association. All rights reserved.